8月中旬、アメリカ大統領選に出馬中のジョー・バイデン氏が、Nintendo Switch向けゲーム「あつまれどうぶつの森」(以下、あつ森)内で選挙キャンペーンを展開し話題となった。その動向をフォローするように、9月、自民党総裁選中の石破茂氏が同ゲームに自らのアバター「いしばちゃん」をつくることを発表した。
しかし発表後、石破氏陣営は「あつ森計画」を断念。「任天堂の規約に違反しているのではないか」との声が多く寄せられたためだ。ニンテンドーアカウント利用規約8条20項では「政治的または宗教的な主張を含む行為」は禁止事項とされている。
では、アメリカでは規約違反ではないのだろうか。結論から言うと、任天堂アメリカの規約には政治的主張に関する項目は設けられていないため、バイデン氏の「あつ森」内での選挙活動は規約に違反しているとは言えない。同じゲームの規約がなぜ日米間で違いがあるのだろうか。
一方、香港では、コロナ禍に民主化運動のデモが「あつ森」内で展開され、日本でも話題となったが、概ね好意的に取り上げられていた。「Free Hong Kong」のスローガンがゲーム内に掲げられ、政治色が色濃く現れた現象だった。
ゲームが政治的な使われ方をするのはいけないことなのだろうか。世界のゲーム業界やゲームと政治との関わりについて詳しいゲームジャーナリストのJiniに「あつ森」現象にまつわる疑問を聞いてみた。
「あべぴょん」配信の自民党、米陸軍の新兵募集ゲームとは
「あつ森」の政治利用が取り沙汰されているが、Jiniは「実は、ゲームが政治的キャンペーンのツールとなることは珍しくなく、さらにその実態は日米間で全くといっていいほど変わらない」と話す。
例えば日本では、安倍前首相率いる自民党が、スマートフォン向けゲーム「あべぴょん」の配信を行ったり、ゲーム実況の動画が多く配信されるサイト「ニコニコ動画」のイベントに長年参加し「自民党総裁の部屋ブース」を設けるなど、長年にわたってゲームと関連したキャンペーンに力を入れてきた。
アメリカでは以前、トランプ氏がゲーム配信サイトでアカウントを開設したことが話題となった。トランプ陣営はバイデン氏と比べると、ゲームを好むような若年層への訴えかけに積極的ではないが、ゲームを活用したキャンペーンに関心を寄せていることはたしかだという。
さらにアメリカでは、ゲームの政治的活用の観点から物議を醸したゲームがある。「America’s Army」という人気無料ゲームで、米陸軍が新兵をリクルートするために国家予算を割いて開発を主導したものだ。本格派のミリタリーゲームとしてシリーズ化されており、シリーズ発表から2年あまりでプレイヤーアカウントの登録数が330万人を超えるなど、かなりの人気を誇った。
その反面、こうしたキャンペーンの巧妙さに反発する意見も多かった。Jiniは「このようなキャンペーンが行われたことについて、マスコミは驚きをもって報じたことを覚えています」と語る。