ゲームを自己表現の場として
昨今は政治利用のほかにも、アーティストがコンサートを行ったり、ブランドがコレクションを発表したりと、世界中の人々が一斉に集まる場としてゲームの世界が用いられている。こういった多様な活用法が可能になった背景について、Jiniは、従来のゲームが「開発者からプレイヤーに与えられる」という構図であったのに対して、現在は「プレイヤーが自己表現の場として、ゲームの世界観を自ら作り出して楽しめるようになった」と説明する。
具体的に言うと、「あつ森」など多くのゲームでは、クリエイティブモードを使ってゲームの中で自分が考えたゲームをすることもできるし、絵を描いたりもできる。ゲームの楽しみ方がかなりプレイヤーに任されているのだ。
あつ森(英語名は「Animal Crossing」)内で高校の卒業式が行われている様子。(Photo by Getty Images)
「あつ森」は、無人島を舞台に、島に到着したプレイヤーが、自分の好きなように島に家を建て、開拓していくゲームだ。ゲームの冒頭で、島の飛行場に到着したプレイヤーは、ガイド役のキャラクターから「あなたはどんな姿ですか? なりたい自分になっちゃう感じで」と告げられる。これはアバター設定をするためだ。
Jiniは「現実における自分の身体的性は生まれた時から決まっているもので、選択の余地があるものではなかっただけに、この問いかけはゲームの進化を表す象徴的な設定」だという。
アバターの服装も髪型も性別の制限なく、「なりたい自分になっちゃう感じで」自由に設定できるのだ。つまり、このゲーム上では少なくとも、なりたい自分になることに制限される要素は一切存在しない。ここで、Jiniはゲームと政治の関連性について、重要な指摘をする。
「『自己を表現すること』の中に政治的主張が仮に入っていたとしても、それは自然なことなのではないか」
冒頭で触れた規約についても、これはニンテンドーアカウントについての規約であり、「あつ森」に関する規約ではないことにも留意したい。
「あつ森は政治的な利用を推奨はしていません。ただ、より大きな範囲でプレイヤーが自由であってほしい、自分自身が表現したいものを表現してほしいというのが作品のコンセプトであって、日常生活を送る上で分離することができない『政治』的な価値観が含まれてくるのではないかと思います。
『なりたい自分になっちゃう感じで』っていうのはいまゲーム業界、エンタメ業界で重要視されている価値観です。あつ森も『性的少数者の人も安心して遊べます』とか『女性もエンパワーメントされますよ』とは、一言も言ってないませんが、それをもっと大きく包摂する認識として、任天堂が『自分らしさを追求してほしい』という思いのもとつくったゲームなのではないかと思います。規約で政治的な表現を禁止していても、作品のコンセプトを鑑みるに、任天堂はもう少し自由な表現を推奨しているのではないかというのが、私の解釈ですね」