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#供述弱者を知る

連載「#供述弱者を知る」

人生が、人との出会いによって左右されるのだとすれば、刑事は暗転へと導いた人物であり、逆に、事件から8年目の2012年、新たな弁護人となる井戸謙一弁護士(66)との出会いは、真っ暗闇の人生が好転へと向かう転機になった。

前回の記事:獄中で自殺未遂、冤罪のむごさ 信頼したのは、心ある弁護士だった

井戸弁護士は、西山美香さん(40)の父輝男さん(78)が訪ねてきたときのことを、こう振り返る。

「事務所におみえになったので、一応、話を聞いてみたんです。ですが、警察が殺人事件だと思っていない段階で自分から殺人の自白をしている、ということだった。それでは、とても無理だと思い、最初はお断りしたいと思っていました」

しかし、可能性がないとわかっても、すぐに扉を閉ざさない。そこが、裁判官を辞めて「よろず相談所を」とマチ弁を志した井戸弁護士らしいところだった。断る前提でいながらも「冤罪を主張して再審を望んでいる以上、誰か弁護士がつかなければいけない」と考えると、門前払いはできなかった。

最初は、断るつもりで裁判の記録を読んでみると......


そこで「とりあえず記録を預かって、読んでみることにした」という。

ひと言で「記録を読む」といっても資料は膨大な量だ。第1次再審請求で再審の道が閉ざされたこの時点で、すでに6回の裁判を重ねている。そんな事件ともなれば、公判記録は段ボール箱で数箱にもなる。読み始めれば何日、いや何週間がかりにもなる。

原発訴訟に関わる一方で、事務所では法律相談に来る人と丁寧に応対している多忙な日々。まだ弁護人になる前の段階で、このような負担を受け入れる人は、そうはいない。この間は、まったくのボランティアになるからだ。仮に弁護人を受けるとしても、日弁連の支援に指定されていない冤罪事件となると、十分な訴訟費用は望めない。むしろ、持ち出しになるのが当たり前の世界だ。記録の山に向かうのは、弁護士としての社会的な使命感でしかなかっただろう。

裁判記録を読み進むうちに「捜査段階から問題の多い事件だということが分かってきた」と言う。

「これは、冤罪じゃないか」

そう確信したのは、西山さんが刑事に「アラームは鳴ったはずや!」と脅されて「鳴りました」と言わされた後の場面だった。

文=秦融

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