ビジネス

2020.09.26

私のリーダシップを変えた「経営者としてすべきこと」

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、ワークマン代表取締役社長の小濱英之が「すべては人なんだ」を紹介する。


経営者の立場を引き継ぐとき、前社長から二冊の本を手渡されました。一つは、松下幸之助氏の著書、もう一つがこの大久保恒夫氏の『すべては人なんだ』です。

本書の著者である大久保氏は、イトーヨーカ堂の構造改革に携わり、ユニクロ、良品計画の経営改革を担当した後、成城石井の社長を務めるなど、小売業一筋にキャリアを積んでこられた方です。本書には、大久保さんが仕事の中で見出した小売業の本質が簡潔にまとめられています。

前社長は、なぜこの二冊を私に薦めたのでしょうか。ここからは、あくまでも本を読み込んだ自分なりの解釈です。

まず、松下氏の著書は、経営者としての覚悟を持たせるためです。経営者にとって一番大切なのは、社員を幸せにすること。そのためには、その社員の家族も幸せにするという重い責任を担っていることを、私に自覚させるためだったと思います。

そして本書は、経営者としてすべきことを明確にするためです。人と接する仕事に就きたいとワークマンに入社した私は、どちらかといえばやりたがりのリーダーでした。しかし、私がすべてにおいてリーダーシップをとっていては、社員は自分で成し遂げたという達成感を得られず、成長を感じることもできません。やるべきことを自分で考え、“ 熱”を持って仕事をした人と、そうでない人とでは、数年後の姿が大きく違ってくるのです。

今の私がやるべきことは、会社が進むべき道筋を社員たちにはっきりと示すことです。例えば、「客層を拡大する」という課題を掲げたとしましょう。ここから方法を考えて実行するのはすべて社員たち。売り場作りはもちろん、商品作りもそうです。原価を上げて良くするのではなく、様々なアイデアを駆使して、一つひとつの商品を丁寧に作り上げていきます。使えば使うほど良さを感じてもらえる魅力的な商品は、プロの方々のみならず、一般のお客さまも注目してくださるようになり、社員も益々やる気が湧いてくるでしょう。

私は、本を読みながら、一枚のカードに気になった言葉を自分事として箇条書きにしています。その言葉をつなぎ合わせていくと、最後に自分がどうすべきなのかが見えてくるように感じます。

この読み方では、一冊を読了するのに時間がかかり、たくさんの本を読むことはできません。しかし、大切な一冊を深く理解し、その後の仕事に役立てることができるのです。もしも、あなたに尊敬する人から薦められた本があるなら、ぜひ、いつもより時間をかけて読んでみてください。それはきっと、あなたの成長を願った一冊のはずですから。


こはま・ひでゆき◎1969年生まれ。高崎商科短大商学科卒業後、90年ワークマンに入社。2009年商事部長、11年商品部海外商品部長、16年執行役員商品部長、17年取締役スーパーバイズ部長などを経て、19年より現職、現在に至る。

構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 8月・9月合併号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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