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メディアでオリンピックの問題が語られるとき、したり顔で「オリンピックの原点に戻って」などと言う人(知識人? コメンテイター? ジャーナリスト? タレント?……)がいる。

が、その言葉を信じて、もしもオリンピックの創設者であるクーベルタンの「主張」どおりの大会を実践した場合、女子選手は出場できなくなる。クーベルタンは、女性がスポーツを行うことに反対し、女性の役割は「表彰台に立つ(男性の)選手に(オリーブの)冠を捧げること」と断じているのだ。

また晩年のクーベルタンはナチス・ドイツの年金で暮らしたとも言われ、現在IOCの本部が置かれているスイスのローザンヌは、クーベルタンがナチス(ヒトラー)の世話になって過ごした場所だという。


ピエール・ド・クーベルタン像(Photo by Clive Rose/Getty Images)


ナチスとの関係で言えば、1964年の東京大会、1972年の札幌冬季大会の時の第5代IOC会長であるアベリー・ブランデージも、かなり問題の多い人物だ。

ヒトラーのナチス政権下のドイツでのユダヤ人に対する迫害と差別が問題視され、ボイコット運動が広がりそうになったとき、当時USOC(アメリカオリンピック委員会)会長だったブランデージは、大会前にベルリンを訪問。ゲッペルスやゲーリングなど、ナチス幹部の大接待を受け、「ユダヤ人差別は存在しない」とIOCに報告。ボイコットの動きを阻止したうえ、ヒトラーによる独裁政治を称賛する文章も残した。

ブランデージは、ヒトラーと同じ「反ユダヤ主義者」だったことも判明(ミュンヘン大会のイスラエル選手団襲撃殺害事件後の追悼式でも、IOC会長としてイスラエル選手団への哀悼の意は示さなかった)。女性のスポーツ進出を否定する文章も残し、植民地主義者としてアジア各国の美術品を数多く手に入れた蒐集家としても知られ、その美術品の多くはサンフランシスコ・アジア美術館で展示されていた(日本から柿右衛門の壺や九谷、伊万里などの陶器、根付けなど贈られたことも、自伝に書いている)。

が、植民地主義者で、人種差別主義者で、女性差別主義者で、ナチスと親しかったブランデージに対する批判の声が起こり、昨年末には、サンフランシスコ・アジア美術館にあった彼の胸像の撤去が決まり、提供した美術品も、「元あった場所」に返す動きが始まったという。

第7代IOC会長のファン・アントニオ・サマランチも、スペインの独裁者フランコの支持者で、スペインのファシスト党であるファランヘ党の党員。スペイン内戦ではヘミングウェイやアンドレ・マルローの参加した国際義勇軍などの民主勢力を弾圧する側に立った。


第7代IOC会長のファン・アントニオ・サマランチ(Photo by Charles Dharapak-Pool/Getty Images)


そういった人物が築いてきた「オリンピックの平和運動」の延長線上にある現在のオリンピックが、どこまで平和への効力を発揮できるのか、大いに疑問のあるところだが、最近でも昨年9月には世界中の160を超す人権団体から、中国のウイグル族、モンゴル族、チベット族、そして香港市民などへの政治的弾圧に対して抗議の声があがり、2022年の中国北京での冬季五輪大会を考え直すようIOCに対して抗議文が送られた。

これに対して中国オリンピック委員会は「政治のスポーツへの介入」だと反論。IOCも「政治的問題には取り合わない」姿勢を打ち出した。

文=玉木正之 編集=宇藤智子

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