ビジネス

2020.09.25

我が社ならGAFAとだって戦える。大日本印刷の華麗なる変身

大日本印刷社長 北島義斉


領域を超えて新しいビジネスを生み出すには、まず縦割りの壁を崩す必要がある。DNPが第三の創業を明確に打ち出したのは、北島が副社長時代にまとめた2015年の「DNPグループビジョン」の策定から。それに先立って、まず各事業部の研究開発とR&D機能を本社に集約させた。また、将来性があるテーマについては、既存の事業部から切り離してアドバンスドビジネスセンター(ABセンター)と名づけた独立組織で事業開発を行った。

ABセンターは先行投資で、当面は赤字を覚悟していたという。だが、すでに軌道に乗り始めたビジネスもある。リチウムイオン電池用のバッテリーパウチだ。リチウムイオン電池は、モバイル機器の普及とともに小型化・軽量化が求められるようになったが、従来のように電池を金属で覆っていると小型化・軽量化に限界がある。そこで独自のコーティングをした薄いフィルムで電池の内容物を包み、液漏れや発火を防ぐパウチを開発した。


スマホや電気自動車などで使われるリチウムイオン電池用バッテリーパウチは、DNPが世界トップシェアを占める。ノーベル賞を受賞した吉野彰博士が理事長を務める「技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)」には2010年の設立時から参画、次世代電池として期待される「全固体電池」の開発に取り組んでいる

「フィルムにコーティングする技術は、もともとパッケージ分野のもの。最初は包装事業部が開発を手がけていましたが、普段、ラーメンやポテトチップスの袋を高機能化することに集中している技術者に、携帯電話や電気自動車のことはわからない。

一方、エレクトロニクス部門には発想はあっても、フィルムにコーティングする技術がない。これを結びつけるために人を集めてABセンターとして切り出したころ、事業が大きく成長してシェアナンバーワンになりました。現在は高機能マテリアル事業部として独立させています」

各事業部に眠っている技術や知見を組み合わせれば、新たなイノベーションが生まれる。そこにさらに生活者の視点をかけ合わせば、第三の創業への道が開けてくる。

生活者に近い新規事業として象徴的なのは、北島の思い入れが強いイメージングコミュニケーション事業だろう。DNPは証明写真ボックス「Ki-Re-i」など、写真関連のビジネスを展開している。証明写真は成熟産業でイノベーションが起きにくいと思われがちだが、「Ki-Re-i」は通信機能を搭載し、スマホに撮影データを保存して就職活動のウェブエントリーをしたり、ボックスから直接マイナンバーカードの申請をしたりすることができる。

「顔写真データをインターネットで送信して社員証を作成するシステムは、多くの企業で使われています。また、情報イノベーション事業部では、金融機関のICカード関連のデータ流通やセキュリティも手がけています。両者をかけ合わせれば、将来、本人確認が求められるあらゆる手続きを、街の証明写真ボックスで済ませられる日が来るかもしれません」

注目したいのは、ボックスの機能そのものより、裏側にある仕組みだ。

「生活者からデータを預かり、同意に基づいてサービス事業者にデータを提供する『情報銀行』のプラットフォームを、現在、開発しています。金融のカード情報はもちろん、個人が識別できる写真も個人情報です。こうしたデータを、社外のパートナーと連携して幅広く運用できるようになれば、GAFAとだって戦えるのではないか」


証明写真ボックスをさまざまな手続きのハブとして活用。DNPのデータ流通のノウハウを活用した新事業「情報銀行」ビジネスでは、本人の同意のもとで顔写真や位置情報、購買履歴といった個人データを預かり、外部企業に仲介し利活用を促す。DNPはすでに富士通や産経新聞社と協業し、システムプラットフォームの提供や新規サービスを開発中

新しいビジネスを生むための組織体制は整いつつある。残るのは、中で働く社員たちの意識改革だ。

(続きは9月25日発売のForbes JAPAN11月号にてお読みいただけます)


きたじま・よしなり◎1964年生まれ。87年慶應義塾大学卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入行。95年に大日本印刷入社。2001年の取締役就任後は情報コミュニケーション部門を担当。専務取締役、代表取締役副社長などを経て、18年6月より現職。

文=村上 敬 写真=ヤン・ブース

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