俯瞰しながらも綿密で細かなリサーチ、鋭い分析と仮説にもとづいた提案など、ロジカルに考えるスキルこそが物を言う世界にも思われる。もちろんそうしたスキルは必須であるが、優秀なコンサルタントほど、それだけが全てではないことを肌で理解しているという。
「私のモットーはクライアントの心に火をつけること。そのためには理屈や論理だけではなく、感情や思考を揺さぶるスキルが求められる」
そう語るのは、アビームコンサルティングの戦略ビジネスユニットでシニアマネージャーを務める大道寺一慶(だいどうじ かづよし)。
彼はナショナルクライアントを中心に、先端テクノロジーを駆使した新規事業開発や事業変革の支援を行っている。彼が手がけたプロジェクトから、「右脳と左脳のハイブリッド」ともいえる仕事の流儀を紐解いていきたい。
いかに共創できるか、それがポリシー
──クライアントの心を揺さぶる
冒頭にあった大道寺の言葉だが、彼は他にも、こんなポリシーを心に宿している。
「我々のチームが提供するのは情報、問い、そしてアドバイス。実際に事業を進めるのはクライアントであるため、具体的に事業をどう形にしていくかはクライアントが主体的に意思決定してもらうことが重要です。もちろん、決めた内容については伴走しながら支援を継続します。ただ、前提としてクライアントが『自分ごと』として事業創造に向き合わない限り、せっかく新規事業が走り出しても、上手くいきません」
ある企業から「宇宙ビジネスに進出したい」という相談が寄せられたときのことだ。
大道寺はまず、クライアントの目指したい方向性をふまえ、強みを活かせるビジネスを検討。その企業と親和性が高く、技術を持った企業を発掘するために、アビーム社内のリサーチ&イノベーションセクターとも連携をした。
こうした場面でも、一方的に分析や戦略構築を行うのではなく、クライアント自身が積極的に関与することを大道寺は大切にしている。
最終的には事業パートナーとして海外の有望なスタートアップを発掘し、クライアント自らが新規事業を運営するための仕組みづくりを支援することができた。
他にも、このような象徴的な事例があった。
あるとき、担当する大手情報通信系企業から、「モビリティのあり方が変わる未来に向けて、自社の顧客データやモビリティから取得できるデータを用いて、自動車メーカーと一緒に新しい事業をつくりたい」という相談が大道寺に寄せられた。
クライアントにはうっすらとした目指す世界観はあるが、その輪郭を明確にする材料がない。そこで大道寺は海外拠点メンバーも含め数十名規模のチームを編成。アビームのネットワークを駆使し、グローバル市場も含めて調査を行なった。
「そのクライアント、自動車メーカー共に世界で事業を展開しているため、国内動向だけをリサーチしても意味がない。グローバルカンパニーが20年、30年後にインパクトのある事業を展開するためには、世界の事例を調査する必要がありました。
ヨーロッパをはじめ、中国、タイ、インド、韓国出身のメンバーたちとモビリティの世界的動向を調査し、戦略を描きましたが、これがなかなか大変な業務でした。クライアントの視点や想いも大事であるため、当社のセミナールームにお越しいただき、ワークショップやディスカッションを幾度も重ねながら検討を進めていきました。最後は納得のいく分析・戦略をクライアントの経営層に提出でき、満足いただくことができました」
大道寺らの提案はクライアントの心を揺さぶり、その評判は他部門にまで広がった。その結果、毎年のように形を変えながら、多種多様な相談が大道寺のもとに寄せられている。
彼が手がけるのはリサーチして戦略を描くという、従来型のコンサルファーム的なプロジェクトだけではない。はじめから答えを提示するのではなく、目指すはまさに「共創」。共に生み出し、そしてクライアントの自走までも見据えているのだ。
「気づき、きっかけ、感動」がクライアントの思考と感情を揺さぶる
前述のように伴走型コンサルティング、そして共創によって数々のプロジェクトを成功に導いてきた大道寺。クライアントをその気にさせ、自走してもらうにはどうすればいいのか。大道寺が常に心に留めていることは「気づき」「きっかけ」「感動」だという。
彼いわく、「気づき」とはクライアントが描き切れていない風景をより深く、広く見せること。ぼんやりと描かれている風景に対し、そのアイデアが成功するのかどうか、どう実現するのか、その糸口になるヒントを提供する。
では「きっかけ」はどう与えるか。
「これは相手にひたすら問いかけるしかない」と大道寺は話す。一方的な質問ではなく、自己開示を織り交ぜながらクライアントの担当者一人ひとりの思考に入り込んでゆく。「本当は何がしたいのか」「どんな原体験があるのか」「最近見て感情を動かされたニュースは何か」、といったことを問い続け、それぞれの心に火をつけるのだそうだ。
最後の「感動」とは、期待値を超えるアウトプットを出すことで与えられるという。
「ここまで自分たちのことを考えてくれているのだ、と思ってもらえるように徹底的に寄り添う。そうすることでクライアントの感情が揺さぶられ、継続的な関係に繋がっていき、プロジェクトも良い方向に向かっていきます」
新規事業は、ロジックだけで成功するほど簡単ではない。
たしかにコンサルタントである以上、論理的にデータを集め、客観的に分析し、伸びる領域を見つけ出すことは必須だろう。しかし、それは大前提であり、最終的にクライアントが自分ごと化し、自走しなければ、緻密な戦略も机上の空論になってしまうのだ。
任された以上、価値を出す。ひたすらインプットし続けた日々
海外スタートアップとの協業による宇宙事業や、情報通信系企業と自動車メーカーによる次世代モビリティ事業など、今でこそ様々な共創によるイノベーションのきっかけを生み出している大道寺。そんな彼にも苦労があったという。一体どんなキャリアを歩んできたのか。
大道寺は新卒でベンチャー企業に入社し、営業や企画、新規事業、新人育成など様々な役割を担っていた。あるとき、コンサルティングファーム出身の社員が数名入社してきた。彼らの仕事ぶりを見ている中で、より広い世界でスキル・経験を身につけたいという思いが強くなっていったという。
「当時はまだ20代半ばだったこともあり、その時期特有の焦りもあったかもしれません。ずっとここにいても、コンサルファーム出身の彼らのようにはなれない。そう思い、転職を決意しました。なぜアビームを選んだか? それは『チームで成果を出す』という私の価値観と一致したからです。面接官も親しみを持てる方が多く、働いている人たちの人柄も決め手になりました」
2013年、アビームに転職後、大道寺は大手企業の中長期戦略の策定やそれに付随するM&A、新規事業の開発・実行、ビジネスプロセス改革、組織改革等を担う戦略ビジネスユニットに配属。最初の案件は、とある企業の経営をハンズオン型で支援するプロジェクトだった。ここで大道寺は、大きな壁にぶつかる。
「毎日のように社内で会議が行なわれていたのですが、最初は何の話をしているのか全く理解できませんでした。ただ会議室で座っているだけの状態で、バリューを出せていなかったのです。そのような自分を変えたくて、自分に欠けているものを洗い出し、参考書籍を読み漁りました。
たとえばラーメン屋に並んでいるときもひたすら本を読み、足りない知識を腹落ちするまでインプットする。そして、学んだことはプロジェクトに関する資料でアウトプットし、週明け上司に壁打ちする。そんな生活を半年ほど続けるうちに、次第に会議での内容も理解できるようになりました」
入社半年後、ようやく手応えをつかんだ大道寺。最初の3年間は、メンバーとして大手サービス企業の中長期経営計画策定や、製造業へのAIビジネス機会検討などのプロジェクトを経験。その後、2016年にマネージャーに昇格し、冒頭で紹介したモビリティに関するグローバル動向調査や、宇宙領域における新規ビジネスの検討など、様々なプロジェクトを牽引してきた。
大道寺はコンサルタントとしての流儀についてこう語る。
「この事業は儲かる、儲からないといった戦略はいくらでも描けますが、それを実行するのはクライアント自身。ときに厳しい意見をクライアントに伝える場面もありますが、それは『自分が担当する以上、考え抜いてプロジェクトを成功させる』という断固たる決意があるから。任された以上、やりきるのは、私自身もそうですし、当社のコンサルタントに共通している価値観だと思います。これからも、クライアントの心に火をつけ、感動を与え続ける存在でありたいですね」
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