コロナ禍で面会制限も。入院中の子どもに付き添う大人の「困りごと」

FS Productions/Getty Images


困りごとの発信が難しい理由


光原さんの話のなかで、私自身が気になったのは「困りごとが声になりづらい」という問題だ。大人と違って声を上げられる子どもは少ないし、家族にしても困りごとを発信するのは、自分の子どもが病気であることを社会にカミングアウトするようなものなので、心理的な抵抗感も大きい。

この問題について、2017年にハフポストの企画「#病院の付き添いを考える」で子どもの入院付き添いの現状を報じた錦光山(きんこうざん)雅子さんに話を聞いた。たくさんの付き添い家族を取材した当時の記憶を辿りながらこう語ってくれた。

「医療では『病気を治すこと』が最大の目標になります。しかし、入院生活はそれまでの生活とは全く異なる状況になるので、付き添い家族の衣食住やメンタル、家で待つ家族への影響など、病気以外の『患者の家族生活に関するさまざまな困りごと』も当然生じてきます。

しかし、子どもの病気を治すことが最も大事な目標とされるため、それ以外の困りごとは、なかったことにしてしまうことが少なくありません。

困りごとに直面している最中は、目の前のことでいっぱいいっぱいで、なかなか周りに伝える余裕がないものです。病院側の対応に違和感を覚えても、そう思うのは自分だけなのかもしれない、もしくは治療してもらっている立場なのだから、と抑えてしまうこともあります。

そして、お子さんが退院されれば、視点は退院後の生活に移っていくので、入院中の生活を振り返ったり立ち止まったりして、困りごとを改めて検証することも少ないように思います。

困りごとを発信する場合、なぜそれが困りごとなのかということを、体験も含めて意識的に言葉にしていく作業が必要ですが、なかなか難しいものがあります。

ですから、自分の体験した困りごとをなかったことにせず、改善の意思を持ち続けて何らかの行動を起こしていくのが、とても重要だと思います」


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今回、光原さんと錦光山さんに話を聞いて感じたことは、病院の付き添いの問題に関しての大きな変化だ。コロナ禍以前は、体験した人にしか共感しあえない部分があったかもしれない。しかし、みんなが自粛生活を体験したことで、私たちの活動において言葉にしづらかった困りごとを共有しやすくなったのではないかと思った。

困っていることがあったとしても、それを具体的に「見える化」することはなかなか難しく、子どもの入院に付き添う家族の現状はまだまだ社会には知られていない。
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文=石嶋瑞穂

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