「アジアの人は肌が黄色っぽい人が多いので、金色のアイシャドウをつけるとゴージャスに潤って見えます」
逆に「緑」や「シルバー」は濁って見えて難しい色だという。日本で人気な「ピンク」は色次第ではあるが、腫れぼったく見える可能性があるので要注意。「茶色」の方が使いやすく、目を大きく長く見せる効果もあり、プロフェッショナルな印象に仕上がるという。
8月中旬の取材時に「メイクのポイントは?」と尋ねると、西村は少し戸惑いながらも「服装が全体的に黒で、アクセサリーは金色。夏らしいブルーでパッと目を引く、ファッション性を演出してみました」と答えた。西村自身も、いろいろなメイクを試しながら、自分らしさを表現しているのだろう。
線で繋がる、終わりのないゴール
これまで多くの目標を叶えてきた西村にとって、いまの夢はなんだろうか。
「私は世界を巡り、出会った人にメイクをしたり、仏教について伝えたりしたいです。できるだけ多くの人に自由に生きてほしいと願っています。今まで11年間アメリカに住み、世界中を旅してわかったことですが、同性愛者であることや、日本人であることについてなど全く悩む必要がなかったんだと、私は思いました。違う国へ行ったら、当たり前は違う。いろんな人と価値観を共有することで、しがらみから自由になれたから」
壮大な夢だが、西村は「点ではなく線で繋がるゴール」を大切にしているという。「これまで特定のゴールを決めて走ってきましたが、叶えば過去のものになってしまう。私にとっては、ずっと追い続けられる終わりのないゴールが大切ですね」と笑う。
「日々の目標」は「どんな時も喜びを感じられること。楽しみを増やすことが目標」と語る。「コロナ禍でなかなか旅に出掛けられないからこそ、まずは自分の好きなことをノートに書き出し、自分が何を求めているのか、どんな人なのかを知る機会にしてみて」と呼びかける。
そして我慢は禁物。「自分を大切にして生きるために不必要な我慢はしなくていいし、素直な気持ちを隠さなくてもいい。我慢=美徳とは限りません。現実世界でもSNSでも、弱い自分を見せてもいいと思っています。自分の人生は自分で決めなくちゃ。一度きりの人生、せっかくなら自分らしく自由に生きていきたいですよね」
誹謗中傷や心無い発信は敵意を呼び、前向きな発信は受け手に気づきを与える。西村がシェアする情報を発信源として、これからもポジティブな気持ちが連鎖していくのだろう。
(前編:メイクで美の魔法をかけるお坊さん 西村宏堂の正々堂々生きる「決断力」)
西村宏堂◎1989年東京生まれ。浄土宗僧侶。ニューヨークのパーソンズ美術大学卒業後、アメリカを拠点にメイクアップアーティストとして活動。2015年に僧侶となり、その傍ら、LGBTQ啓発のためにメイクアップセミナーも行なっている。著書に「正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ」。