地元の人たちがこぞって通う 異国風味の「パリ料理」の店

「グラム」のテラス。パリでは当初9月末までだった臨時テラス席の設置が、来年6月までに延長された。


足を踏み入れると、そこには、とてもいい匂いが充満していた。小さな厨房には湯気が立っている。スタッフの男性も気さくで、満席に見える店内で運良く空いていた窓際のカウンター席に案内された。

冷蔵庫の扉に、日替わりのサンドイッチとサラダが書かれていた。けれど、サンドイッチはすでに売り切れらしく、線が引いてある。メニューにあるものも気になったが、結局、私は日替わりサラダを頼んだ。

運ばれてくると、レンズ豆に紫芋にジャガイモ、2色のアンディーヴとマスタードの葉がシックな色合いで、端に添えられたゆで卵の黄身が目に鮮やかだ。それにヘーゼルナッツや、マスタードシードなど歯ごたえが軽やかなアクセントが散らしてある。

野菜の下にはラブネ(ギリシャ風ヨーグルト)が隠れており、自家製ピクルスやケッパーで味の変化が楽しめて、飽きることなくあっという間に食べ終えた。お腹も十分に満たされた。そして、この日から、ほぼ毎週、私はこの店に足を運ぶようになった。

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1月に初めて食べた日替わりサラダ

お昼を食べるタイミングを逃したある日、何かデザートだけでも食べられるかとGrammeに向かった。コーヒーショップも兼ねているGrammeには、店に入ってすぐ左手にショーケースがあり、季節のフルーツのタルトや、キャロットケーキ、クッキーなどの焼き菓子が並んでいる。

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北マレ地区にあるグラム

着いた時にはすでに3時を大幅に回っていて、厨房はランチの慌しさから落ち着きを取り戻しているところだった。でも、「ブリオッシュならできる」という。とりあえずそれをお願いして、どんな風に出てくるのかなあと楽しみにしていたら、ティラミス風味のパン・ペルデュだった。ずっと食べたいと思いながら、食べる機会がなかったものだったから、願ったり叶ったりだ。

オーブンで温めて仕上げられたそれは、ほわほわと温かく、フォークを差し込むと切れ目から湯気が立ち上り、力が入っていた体と気持ちをあっという間にほぐしていく。フライパンで焼くタイプの油っぽさが無くて、それゆえに味が優しい。とても美味しかった。

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パン・ペルデュはフォークを差し込むと湯気がほわっと。今の季節はフルーツを使っている

「これを目当てにまた来よう!」と思っていたら、その翌日、新型コロナウイルス感染防止対策のために、レストランの営業停止が発表された。3月半ばのことだった。
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文・写真=川村明子

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