「競争から共創、共犯へ」 個展で注目、匿名アーティストA2Zに聞く

左:Evening Snow no a Floss Shaper (Nurioke no bosetsu), From the series “Eigth views of the Parlor (Zashiki hakkei)”、右:Cupid Chastised

「緊急事態」「不要不急」「自粛」。非日常的なワードが日常的に飛び交い、人々の生活における優先順位が大きく入れ替わった2020年。一方で感染防止策を講じながら、徐々に人が街中に戻りつつある。

このコロナ禍において、自身の感性の代謝が鈍ってきているのではないか。そろそろ外に出て、五感でインスピレーションを得たい。そう感じている人も少なくないのではないだろうか。

そんな中、若年層を中心に俄かに注目を集めている展覧会がある。渋谷PARCOの「OIL by 美術手帖ギャラリー」で9月10日から開催中の、東京を拠点に活動する匿名アーティスト「A2Z(エートゥージー)」の初となる個展「AtoZ MUSEUM」だ。

A2Zは日用品や身の回りにあるもの(A[起源]からZ[終焉]まで)を再定義してアート作品としてパッケージする、覆面型プロジェクトを展開している。

著作権が消滅した名作を現代に「再生」


衝撃的なのは、誰もが一度は見たことのある著名な作品に大胆に手を加え、オリジナル作品に変換していることだ。著作権が消滅したパブリックドメインの美術作品を対象とし、今回はシカゴ美術館で2018年に著作権が消滅した作品データを改変して制作した。

常識破りの作品の数々が、人々の感性に新たな気づきと思考を呼び起こす。

例えば本展覧会のキービジュアルとなっている、顔の部分以外が「再生」されたゴッホの自画像。外壁清掃の作業員のようなシルエットのキャラクター「Mr.A / Mr.Z」の2人が、一度はその著作物的価値を失った1887年の歴史的名画を、時を超えて蘇らせている。モネの「睡蓮」や浮世絵などの名画も「再生」され、展示されている。



「何これユニーク」「かわいい」「めちゃくちゃ好み」。ファッショナブルな装いの若者たちが思わず足を止めて作品を鑑賞し、「現代の風刺画」をスマホで撮影している。

足を止めるほどのサプライズと、権威主義が崩壊した現代を反映した作品への納得が表出しているのかもしれない。

数日で作品の大半が売れた


突如として現れた匿名アーティスト。作品の価格帯は十数万円〜200万円で、その大半は開催数日でSOLD OUT。若年層を中心に幅広い層が購入し、ECでも売れているという。巷の「芸術は『不要不急』か否か」論を一蹴するかのような盛況ぶりだ。

果たして名作へのリスペクトなのか、タブーへの挑戦なのか。世界に何を問いかけているのか。コロナ禍のアートシーンに一体何が起きているのか。編集部はA2Zに特別に取材した。


写真=小田駿一

かつて高い価値を誇った作品が著作権の消滅により、パブリックドメインという形で民主化された。今回の作品群はそんな作品たちに新たに人工的に息を吹き込む試みなのだという。本人は「『編集の時代』に生まれた『絵画のゾンビ』」と称する。

昨年の3月から制作を始めた。間もなく、作品を見て様々な人たちがサポートを決めた。初となる個展の舞台が1948年創刊の歴史ある『美術手帖』運営のギャラリーであるというのも異例のことである。

本展の意義について、「OIL by 美術手帖ギャラリー」担当者はこのように語る。「『OIL by 美術手帖』はできたばかりのスペースとして新参者です。また『美術手帖』は商業誌としてこれまで、現代美術をどう幅広い層が受容できるように伝えるかに取り組んできました。その点で、この展覧会でも新しい挑戦ができると考えました」
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文=林亜季

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