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「印刷」へのこだわり


A2Zは仕事で2晩徹夜した明け方に作品の構想を思いつき、印刷工場に発注したのが始まりなのだと話す。絵画の一部を銀色で塗っているのではなく、ミラー加工やメッキ加工された下地に対し、その一部を残して特殊な技術で名画を厚盛印刷し、アクリル板でインクを強力に押しつぶすことによってエンボス加工のような凹凸によって「復元」させている。

「産業革命によって19世紀に機械化が進み大量生産・大量消費が可能となり、現代的な意味でのデザインが登場し、ファインアートとより明確に分かれていった。アートやデザインやカルチャーが大衆に広く伝わった過程において、印刷というテクノロジーが果たした役割が大きく、印刷技術や印刷業界への憧れと感謝がある」と語る。

作品に通底するドットのモチーフでも、「印刷の最小単位」というものへの敬服を表した。

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大量消費文化の中で、オリジナルよりもコピーに強い現実味やオリジナルを超える価値を見出すポストモダンの美術動向「シミュレーショニズム」にも通じる。

一部の限られた特権階級のものであり、その絶対的唯一性が価値をなしていたかつてのアートのマスターピースを、何者でもないキャラクター「Mr.A / Mr.Z」が現代に蘇らせている構図は、名画の価値を改めて問う試みでもあり、一方でアートの権威主義や階級社会の崩壊を象徴する表現とも言える。

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「ある意味確信犯的。リスペクトと皮肉、どっちもある」と言う。「スノッブとゲットーの入り混じるところが好き。歴史あるブルジョア的なハイ・カルチャーと、それに対抗して生まれたカウンター・カルチャーとの交差点を表現したかった」

確かに現場ではあらゆる「交差点」が表現され、さまざまな「逆転」が起きていた。

予測不能、増殖する「往来の軌跡」


会場中央にはフレーム化された木材にフェンスなど工業製品を組み合わせたディスプレイがあり、作品やグッズが展示されていた。ただの白い壁に作品が飾られているだけではなく、様々なテクスチャーにアートが飾られている。

さらに渋谷の喧騒を表現するネオンをあしらった。自然物と人工物の融合体を用いて作家の創るグッズや作品を一つの集合体として「額装」し、アート化している。美術展では珍しいディスプレイである。

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展示の主役である作品が床に無造作に立てかけられ、その上に本展覧会を記念したグッズが並ぶ。日本の気鋭のファッションブランド「BODYSONG.(ボディソング)」とコラボレーションしたTシャツやパーカー、エコバッグなど。アートとファッションの境界やヒエラルキーの揺らぎが表現されているとも言える。

ディスプレイを覆うパイプには、来場者がステッカーに自由に名前やメッセージを書いて貼ることができる仕掛けも設けた。かつての渋谷のカルチャーを彷彿とさせるかのように、無数のステッカーは主催者の予測不能な形で増殖し、パイプにタギングされていく。コロナ禍で一時は激減したからこそ価値を持つ、人のリアルな往来の軌跡とも言える。

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「あの人も来てたんだ」「私も来ました」と来場者がSNSにアップすることで、それがさらなる来場者を呼ぶという、オンラインとオフラインを跨いだコミュニケーションも生んでいた。

文=林亜季

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