お米ライターが探る世界と日本のコメ事情


自給自足で菌と文化をつないでいく


仁井田たちは「自給自足」の酒造りを目指している。契約農家の米を使うだけでなく自社でも米を作る。とれた稲から自家採種して翌年の稲作のタネに使う。酵母菌を添加せずに蔵に住み着いた酵母菌を使う。

今回の木桶の材は奈良県の吉野杉だが、今後は仁井田の先々代が木桶のために残した杉山の木を使って自分たちの手で木桶や酛摺り棒(※生酛造りの酒母を仕込む際に、半切り桶で蒸米、米麹、水を入れてすりつぶすための櫂棒)などの酒造りに使う道具を製作する予定だ。そのために、木桶作りの技術をつなぐプロジェクトに取り組むヤマロク醤油に蔵人を派遣して、木桶作りのノウハウを学んできたという。

「酒造りは里山の田んぼや木の恵みと一体だったのです」と仁井田は語る。だからこそ地元の米と水、木で作った道具にこだわる。


木桶の中の酒を混ぜる仁井田。木桶は直径1.8メートル、円周5.5メートルで、3トン以上の水圧に耐えられる。タガには真竹を使用。

「蔵付きの微生物たちが降りてきてくれるかどうかは、米と水の質に大きく影響されます。よりピュアなもの、自然米と天然水じゃないと降りてこない菌たちもいるのではないかと思っています。米が溶けてお酒となるのですから、味わいにも大変な影響を及ぼすものだと思っています」。

今では木桶を使う醤油蔵や味噌蔵は酒蔵同様に激減してしまったが、木桶文化と発酵文化は共に呼応し合いながら日本の食文化も醸し続けてきたと言えるだろう。

「無菌では酒が造れないが、汚いと余計な菌も住み着いてしまう。人間と菌との距離感がちょうどいい。それが木桶の魅力です」と仁井田。自分たちの手で、タネをつなぎ、菌をつなぎ、道具をつなぎ、文化をつないでいく。300年続いてきた仁井田本家の酒造りは、きっと400年500年と進化し続けていくはずだ。その土地で脈々と息づいていく米と水と菌と道具で醸された酒をぜひ味わってほしい。

文=柏木智帆

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