だが、「玄関ドアを開けたらそこはバスケットコート」という「家」を見たことはあるだろうか。
静岡県静岡市に、その「バスケットコートハウス」はある。オーナーは静岡産業大学の男子バスケットボール部監督でもある松角翔吾氏。3人の子供がおり、小1、小4の小学生の息子はバスケットボールプレーヤーだ。
そして松角氏の、「バスケットコートを家の中に作りたい」という奇想天外なリクエストに答えたのは、建築士の妻、美行氏とその兄である小泉秀一郎氏(小泉設計室代表)だ。
「住まいの中心にバスケットコートがある家」の施主にして設計士である松角美行氏に話を聞いた。
『部室』のドアがずらり?
松角邸は、バスケットコート、ダイニングキッチン、洗面所、寝室、子ども部屋、リビング、兼プレイルームという構成の木造二階建て。設計上の一番の工夫や難問は何だったのだろうか。
「まず、バスケットコートを家のどこに配置するかを考えたとき、コートを家の端に寄せてしまうと、家に『コートをおまけで併設』しただけになってしまうと思いました。そこで、家の中心、生活の中心にコートを配置してしまおうと」
そうしてみると、まるで体育館のようになるということに気づき、「それであれば、体育館の要素を空間にちりばめることで雰囲気を出そう」という方針になった。
コートの天井高についても工夫した。2階の『廊下』として機能しているキャットウォーク(飼い猫のため、高い位置に作る通り道に模した、細い空中廊下)部分の天井高はIKEAの家具に合わせて(後述)わざわざ下げたのだ。
「でも吹き抜け部分の天井高をこの廊下の天井の高さに合わせてしまうとコートの空間が狭く感じるため、通常『屋根裏』になってしまう部分を『折り上げ』て、6mの高さを確保しました」
また、壁面はボールや人がぶつかっても平気なように「合板仕上げ」とし、その一部には吸音機能のある有孔ボードを採用した。
「有孔ボード」。いわゆる小学校の体育館の壁に使われていた、穴の開いたあの建材である。日常の暮らしの手触りからはほど遠い、でも少しノスタルジックなイメージを住まいに取り入れてその「違和感」を楽しみ、日々の暮らしにちょっとした冒険心と物語性を取り込む演出だ。「でも、体育館のイメージとはいえ、住宅の雰囲気を犠牲にはしたくなくて。逆に『え? 住まいの中に体育館?』という不思議な体感を目指しました」。