大半の事業会社/CVCにとっては、「オープン・イノベーション」がスタートアップと関わる唯一の目的です。言いかえれば、新しいアイデアやシナジーなど、自社にとってビジネスチャンスとなるものを外部から取り入れようとしているのです。ほとんどの場合、スタートアップと協業するスタンスで話し合いを始めるのですが、結局のところ、彼らにとっての最優先事項は(スタートアップではなく)自社の成長です。そして、事業会社側のこうしたプレッシャーは、スタートアップとの間に齟齬を生じさせてしまうことがあります。協業よりも競争のほうが自社にとって有利だと事業会社が判断した場合など、特にそうです。
投資が実行される前の段階で、そう判断されてしまうこともあります。実際、私たちの投資先でも1件、そのようなケースがありました。その投資先企業の創業者兼CEOは、相手の事業会社が提携もしくは投資に興味があるという前提で話を進めていました。しかし、その事業会社は結局、投資を実行せず、競合サービスをローンチすることになってしまったのです(詳細はこちら)。
森・濱田松本法律事務所の増島先生がこの記事で説明しているように、このような事態を避ける1つの方法は、重要な情報を開示する前にNDA(秘密保持契約書)を結ぶことです。できれば、3〜5年の期間の契約が望ましいです。ただし、これは事業会社/CVCと提携する際に求められるプラクティスであって、VCの場合は違います。ほとんどのVCはNDAにサインしません。これについては前にも記事で書きましたが、私たちの本業は、競争ではなく投資をすることだからです。
事業会社が投資を実行した後のことについても考える必要があります。出資者である事業会社には通常、スタートアップから情報を求める権利があります。ほとんどの優良な事業会社は、提携相手に対して「チャイニーズウォール」の厳格な規制を守ります。しかし、提供したデータや情報が漏洩し、競合プロダクト(もし存在するなら)に利用されてしまう可能性がないとは言いきれません。
相手の担当者をよく知っていて、信用していたとしても、その担当者も結局は会社という大きな組織の一員なのです。戦略的な優先事項が変化する中、その組織、そしてその一部である担当者がいつ「競争」へと方針転換してしまうかわかりません。人事異動で担当者が変わってしまう可能性もあります。または、提携している事業会社が他社に買収されてしまうかもしれません。将来何が起こるかは、誰にもわからないのです。