昨今はクライアントが求めるものに変化が起きはじめた。綿密な調査などにもとづく提言だけではなく、それを実現するための支援、つまり戦略と実行どちらもコンサルティング会社が一社で担うケースが増えている。
その中でも、世界最大級のコンサルティング/ITサービス企業であるアクセンチュアは、コンサルタントだけでなく、エンジニアやデータサイエンティスト、デザイナーなど多彩な人材が在籍していることをご存知だろうか。
この多様性を武器に、アクセンチュアは様々なクライアントとジョイントベンチャーを立ち上げ、戦略から実行までコミットしている。
今回紹介するのは、その最たる例だ。
2018年、関西電力とアクセンチュアは、データアナリティクスや人工知能、IoTなどのデジタル技術を活用し、既存事業の変革支援と新規事業の創出などを目的としたジョイントベンチャー「K4 Digital(ケイフォー デジタル)株式会社」を設立した。
関西電力が目指していたのはデジタルトランスフォーメーション。その構想を絵に描いた餅で終わらせるのではなく、いかに実現させるか。
コンサルティングとクライアントの新しい在り方を現場で模索したのが、アクセンチュアのAIグループでマネジング・ディレクターを務める佐伯隆と、関西電力で佐伯らと共に奮闘したK4 Digital代表取締役社長の篠原伸生(肩書は当時。現・オプテージ執行役員)の2人だ。
大企業から生まれた、ジョイントベンチャーの“創業秘話”をご紹介しよう。
盤石だった電力ビジネスに訪れた黒船、5つの「D」
昨今、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)という言葉があらゆる業界で聞かれるようになった。佐伯と篠原も、まさに電力業界におけるDXという大きなアジェンダのもとに出会った。
当時、関西電力でDXを推進するチームを指揮していた篠原は、画像認識システムを駆使して山の上にある水力発電所の凍結を防止する「Snow Jam」というプロジェクトを発足。アクセンチュアに協力を打診した。
佐伯は以前から関西電力でデータ分析チームの立ち上げ支援を担当しており、Snow Jamプロジェクトにも参画することとなった。
ところで、「電力会社のDX」と聞いて、具体的に何をするか想像がつくだろうか?インフラ産業と、最新のテクノロジーを駆使したイノベーションが結びつかない人もいるかもしれない。
篠原によると、現在の電力業界には5Dと呼ばれる環境変化が起きているという。
Depopulation(人口減少)
Deregulation(電力自由化などの規制緩和)
Decentralization(電力の自給自足による、発電の分散化)
Decarbonization(風力・太陽光などによる発電の脱・炭素化)
Digitalization(他業界と同様に、各業務プロセスのデジタル化)
「5Dは内側からの変化というよりも、外的環境の変化に電力業界がどう適応していくかという話です。たとえば将来、電気が完全に自給自足できる日がきたら、大半の電力会社はいらなくなるかもしれません。また、人手不足や労働環境の改善という意味では、業務の自動化や、設備点検や電力の需要予測にAIやデータを活用することなど、できることがたくさんあるのです」(篠原)
K4 Digital 代表取締役社長 篠原伸生(肩書は当時。現・オプテージ執行役員)
こうした多方面に渡る変革を進めるべく、関西電力とアクセンチュアは協議を重ね、通常のコンサルティング契約ではなく、ジョイントベンチャー設立という形でのパートナーシップを進めていった。
「ヨーロッパでは日本よりも先に電力業界の変革が進んでいます。アクセンチュアとしては海外の先行事例があるので、自然災害に負けない安定した電力供給など、日本にフィットした設備産業のDXができると考えていました。一方で、業界内での競争に勝つという意味では、スピード感も意識しなければならない。そこで、通常の委託契約ではない形、ジョイントベンチャーがベストな選択であるという考えに至ったのです」(佐伯)
各部門の信頼獲得を積み重ね、関西電力全社DX推進のパートナーに
新会社では、これまで関西電力でDXの旗振り役だった篠原が代表に、そしてそれを補佐する参謀として佐伯がソリューションユニット ディレクターとしてジョイン。
ソリューションユニットとは、コンサルチームと連携しながら、データサイエンスを活⽤し課題解決を牽引する立場だ。関西電力とアクセンチュア、それぞれから呼ばれたメンバーによる混成チームが組織された。
クライアントが上司や部下になる環境に佐伯は戸惑わなかったのだろうか。
「確かにクライアントではありますが、共に会社を成長させる仲間でもあります。案件を獲得して収益を出すため、通常のクライアントサービスとは違う形でパートナーになる必要がありました。そのため、関西電力からきたメンバーももちろん指導しています」(佐伯)
そんな佐伯の本気を表すエピソードがある。K4 Digitalの発足初日、全社員が集まったミーティングでのことだ。
「アクセンチュア、ではなく、私はK4 Digitalの佐伯です。よろしくお願いします」と自己紹介し、新会社へのコミットメントの高さを新しい仲間たちに示した。
実際に、佐伯は背水の陣でこのプロジェクトに臨んでいた。というのも、アクセンチュアから動員された部下たちとは違い、佐伯ら幹部は出向という形でK4 Digitalに来ていたのだ。
佐伯の“覚悟の表明”もあり、社内は出身会社による壁もなく円滑な組織が形成されていった。しかし、会社として明確な成果を上げるまでには多少の忍耐が必要だった。案件着手から完了まではタイムラグがあり、その間は会社としての成果が数字に現れなかったためだ。
また、子会社とはいえ関西電力の各部門にK4 Digitalの存在を認知してもらうことも最初の課題の1つだった。
「私はもともと関西電力の人間ですが、描いたことを本当に私たちができるのか、当初は社内に懐疑的な空気もありました。いきなりソリューションを提案しても意味がない。まずは認知と信頼を得るためにDXに着手できていない部門を訪ねて、一緒に課題を探すところから始めました」(篠原)
最初はデータ分析支援や課題発掘など、K4 Digitalのメンバーは地道な活動に汗を流した。その結果、部門からの引き合いや、既存のパートナー企業がいる部門からもコンペに呼ばれるなど、着実に関西電力での評価を高めていった。
最終的に、全社のDX推進を行う委員会のパートナーを担うまでになった。
「教科書的な電力事業の知識はあったものの、現場に行ったからこそ分かることがたくさんありました。作業着を着て現場に行くと、そこにいる人達の思いもわかるようになるんです。K4 Digitalの立ち上げを通じて、ロジックだけじゃ物事はうまくいかないと改めて実感しましたね」(佐伯)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループ マネジング・ディレクター 佐伯隆
「うちのメンバーも鍛えてほしい」。1年半でつくり上げた社風
冒頭でも紹介したとおり、K4 Digitalが設立されたのは2018年。現時点でまだ2年足らずの若い企業だ。だがそんな短い期間でも見事に、“らしさ”が醸成されたのだ。一番の特徴は、現場のリーダーである佐伯が働きやすい環境を意識した組織づくりをしていること。
「元の所属に関係なく、全員を同じ社員として扱うために、まず私たちがアクセンチュア社員だけの会議を禁止しました。ほかにも週1回ライトニングトーク(短時間のプレゼン会)や社内表彰制度を通じて相互理解を促したり、クリスマス会をやって篠原さんにサンタ役をしてもらったり(笑)。そうしたら、次第に社員の士気が上がっていったのです」(佐伯)
当初は40人だった社員は、現在100人を数える。また、出向期間を経て関西電力や系列会社に戻ったメンバーを含めれば「K4 Digitalの文化」を知る者はさらに多い。K4 Digital流のビジネスマインドやDXへの考え方を学んだ社員が、関西電力内に徐々に増えていっている。
篠原いわく、「おもしろい変化」も起きたという。
「最初はお願いして人を出してもらう形でしたが、グループ会社も含めた各社から『この人を鍛えてほしい』と人材を送り込んでくれるようになったんです。こうした人の出入りが活発になると、グループ全体である程度同じ考え方を持った中でより大きなことができるようになるんです」(篠原)
佐伯もジョイントベンチャーならではの貢献の仕方があると話す。
「プロジェクト単位の契約と、ずっと存続していくジョイントベンチャーは違います。クライアントが本当に困っていることを解決するためには、長期的に価値を生む視点を持つことが必要だと日々感じています」(佐伯)
ロジカルに意思決定をするだけでは、クライアントの現実に即した課題解決ができない。佐伯はK4 Digitalの立ち上げ、それを通じた関西電力のDX推進を通じて「合理的、だけどウエット」なパートナーシップを体現し続けている。
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