黒沢清監督の「スパイの妻」がベネチア銀獅子賞に。強力な「師弟タッグ」で実現

(c)2020 NHK, NEP, Incline, C&I

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コロナ禍で暗い話題が続く日本映画界に、ひさしぶりに朗報が届いた。黒沢清監督の「スパイの妻」が、第77回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞したのだ。

黒沢清監督と言えば、これまで、もう1人の「クロサワ」である黒澤明監督になぞらえて、「世界のクロサワ」と称され、海外でも高い評価を得ていたが、世界三大映画祭(カンヌ、ベネチア、ベルリン)のコンペティション部門で、主要賞を獲得するのは、この作品で初めてだ。

銀獅子賞は最高賞の金獅子賞に次ぐものではあるが、最優秀監督賞でもあるので、名実ともに世界的名匠の仲間入りを果たしたことになる。

東京芸大大学院の教授も務める


コロナ禍のために、残念ながら黒沢監督は現地の会場で受賞の報を受けることはできなかったが、日本から次のように受賞の喜びを語った。

「たいへん驚いています。言葉で言い尽くせないような喜びを感じています。長い間、映画に携わってきましたけれど、この年齢になってこんなに喜ばしいプレゼントをいただけるとは、夢にも思っていませんでした。長い間、映画を続けてきてよかったなと、いましみじみ感じています」

「この年齢になって」と語る黒沢監督は、1955年生まれの65歳、兵庫県神戸市の出身。立教大学在学中から、映画サークルで8ミリ映画を撮り始め、1981年には、8ミリ映画「しがらみ学園」が第4回ぴあフイルムフェスティバルに入選。その後、相米慎二監督などの作品にスタッフとして参加。1988年には「スウィートホーム」で初の一般商業映画を監督する。

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国際的評価を高めたのは、1997年の「CURE キュア」で、2001年には「回路」が、第54回カンヌ国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞。以後、「トウキョウソナタ」(2008年)、「贖罪」(2011年)、「Seventh Code セブンス・コード」(2013年)、「岸辺の旅」(2014年)などが海外の映画祭で賞を受け、「世界のクロサワ」と呼ばれるようになる。

初期の作品からホラー色の強い作風が特徴だったが、近年は人間ドラマに焦点を当てた作品も多く、「ダゲレオタイプの女(La Femme de la Plaque Argentique)」(2016年、日本・ベルギー・フランス合作)では、外国人キャストによるオールフランスロケで、完成度の高い作品を生み出した。

また、映画監督と並行して、後進の指導にもあたり、2005年に東京芸術大学大学院に設置された映像研究科では、当初から教授をつとめ、数々の新しい才能を発掘し、世の中へと送り出している。

今回、銀獅子賞を受賞した「スパイの妻」は、1940年の太平洋戦争開戦間近の日本が舞台。黒沢監督得意のホラー的演出はあまりなく、どちらかというと歴史ミステリーの色彩が強い作品となっている。

「スパイの妻」の不思議な成り立ち


主人公は、神戸で貿易会社を営む福原優作(高橋一生)。映画が趣味で、自らカメラを回し作品も撮っている。冒頭に撮影場面も出てくるが、これが後々に物語のなかでも重要な伏線となっている。緻密な脚本と黒沢監督の巧みな演出が光る場面だ。

優作は仕事も兼ね、撮影機材持参で中国大陸の満洲に出かけるが、その地で恐ろしい国家機密を知ることになる。日本へと連れ帰った謎の女性、油紙に包まれたノート、金庫に隠された撮影フィルム……、帰国した夫の不審な様子に、疑念を抱いた妻の聡子(蒼井優)だったが、優作から真実を打ち明けられ、たとえ「反逆者」と罵られようと、夫と行動をともにする決意を固めるのだった。

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文=稲垣伸寿

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