ジム・クック(Photo by Isaac Brekken/Getty Images)

ジム・クックが勤めていたコンサルティング会社を辞め、1870年代に高祖父が考案したレシピを基に自宅のキッチンでビールの醸造を始めたのは、1984年のことだった。それから35年以上たった後、クラフトビール「サミュエル・アダムズ」の生みの親であるクックは、米国の富豪上位400人を選ぶ「フォーブス400」の仲間入りを果たした。

もっとも、クックの今回のランキング入りは、ボストン生まれの先祖のレシピにルーツをさかのぼる、このラガービールのおかげではない。

今年3月、全米各地のバーやレストランが一斉に休業を余儀なくされると、醸造各社は主要な収益源を突然断たれた。市場でも嫌気され、世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブの株価は1月2日から7月24日までに35%下落し、大株主のビール貴族、アンドレス・サントドミンゴとアレハンドロ・サントドミンゴも資産額をそれぞれ15億ドル(約1600億円)減らしている。

ところが、クックが共同創業したボストン・ビール・カンパニーの株価は同じ期間に120%超の上昇と、まったく逆の動きしている。展開するハードセルツァー(風味付きのアルコール入り炭酸飲料)とアルコール入りアイスティーブランドの需要が急増し、買い材料になったためだ。

オハイオ州シンシナティの醸造一家出身のクックは同社の株式の26%を保有しており、これはフォーブスが今回のランキングのために純資産を評価した7月24日時点で約23億ドルの価値があった。フォーブスによれば、総資産額は26億ドルと推定されている。

ボストン・ビール社の6月27日までの1年間の売上高は15億ドル近くに達し、第2四半期は前年同期比で42%増えた。ゴールドマン・サックスによると、2020年末にはハードセルツァーブランド「Truly」が売上高のおよそ4割を占める見通しとなっている。

ボストン・ビール社でも、看板ビールブランドのサミュエル・アダムズと2019年に3億ドルで買収したクラフトビール「ドッグフィッシュ・ヘッド」の売り上げは落ち込んでいるが、Trulyとアルコール入りアイスティーブランド「Twisted Tea」がそれを補う以上の成長を遂げている。

ハードセルツァーは2019年夏、その代名詞となる「White Claw」が人気に火をつけた。TrulyはWhite Clawと同じ2016年に発売され、足元ではこの2ブランドが市場を席巻中だ。市場規模も急拡大しており、ABインベブを含む競合他社も相次いで新製品を投入している。

ハードセルツァーに関して、クックは今年1月のフォーブスのインタビューで「わたしたちはこのカテゴリーの爆発的な成長を促してきたし、これからも促していく」と語り、「おいしいTrulyをつくり続け、機会を見つけては風味を向上させ、わたしたちの商品がいつも一番であるようにすること、やることはそれに尽きる」と続けていた。

バーは米国の多くの州で引き続き休業しているものの、ボストン・ビール社はサミュエル・アダムズやシードルブランド「Angry Orchard」の家飲み向け販売は伸びているという。デーヴィッド・バーウィック最高経営責任者(CEO)は7月、両ブランドが第2四半期に小売り販路では2桁の成長を遂げていることを明らかにしている。

編集=江戸伸禎

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