菅義偉官房長官が行政のデジタル化を進める「デジタル庁」の創設を表明し、岸田文雄政調会長は「データ庁」と「政府DX(デジタルトランスフォーメーション)推進室」を創設する意向を示した。これまでの世論調査で支持率トップだった石破茂元幹事長は、医療・介護分野においてのAI×データなどITのフル活用を図るほか、国民が10-15年ごとにITスキルを再生する「大人の義務教育」のシステム化などを掲げている。
テクノロジーが民主主義の発展に寄与できることとは。また、石破氏の専門分野である地方創生、安全保障とテクノロジーの関わりについてどのように考えているのか。総裁選を前に、3月末に行った対談を振り返ってみたい。
──日本の政治や経済のこれからを考えるとき、テクノロジー活用社会(パブリック)と個人(プライバシー)を両立させ、最適化させることが、今後の政府の重要な役割だと思いますが、石破さんの考えはいかがでしょう?
日本にとっての平成の30年間は、戦争を経験した人がほとんどいなくなり、資本主義が変質を遂げた時代でした。お金に価値がつかない金利ゼロの状態で、市場原理が働きにくく、お金が必要な所に行かず、不必要な所に滞留している。経営者がコストカット経営をし、経営者と株主が豊かになっても、働く人は豊かになっていません。そして、政治の面では個々の投票の価値を見失われ、投票率が低下し、立候補者も減少しました。これは、自戒も込めて政治の劣化と言えます。
今やAIをはじめとした先端技術があるべき資本主義を取り戻すこと、民主主義をアップデートすることに、寄与し得る時代となりました。民主主義はプロセスが重要なので、プロセスを明確化するために、いかにAIを機能させ、技術を寄与させるかにかかります。それにより、政治参画の意味を把握した主権者が多数となり、支配者のための政治は機能しなくなります。
──民主主義を透明化・双方向化させるために、AIをはじめとするITを活用すべきだということですね。
過去、国民が正確な情報を持たないまま熱狂が支配し、民主主義が誤った結論を導いたこともありました。また、民主主義は主権者が多く参加しなければ形骸化し、一部集団による独裁になります。それらを防ぎ、いかに国民に正確な情報を届け、参加しやすい環境を作るか。そのために、テクノロジーの果たす役割は大きいと言えます。
一方で、デジタルテクノロジーには独裁者、権力者の道具となりやすいという面もあります。デジタルによる監視主義的なものを防ぐ手当てが重要です。同時に、デジタルメディアは、自分が好む情報だけにアクセスし、それ以外の情報を無視することが可能となることもも危惧しています。
私は保守の人間ですが、多様な意見が反映され、少数意見が保護されないと民主主義は健全に機能しません。デジタルテクノロジーを、人間が善用することが重要なのです。