「見えない、聞こえない」体験の価値とは ダイアログ・ミュージアムの挑戦

声を出さずに、手の形で思いを伝える世界が体験できる「手のダンス」


「健常者と同じ賃金」への挑戦


ダイアログ・ミュージアムの最大の特徴は、障害のある人たちが体験の案内役「アテンド」を務めることだ。アテンドたちは「くらげちゃん」や「まっちゃ」など親しみやすい呼び名で登場し、コミュニケーションしながら笑顔で導いてくれる。前出の志村代表は次のように語る。

「彼らはとにかく感性が豊かです。たとえば暗闇のなかで誰かが迷子になったら、さっと手を引いてくれるのは目の見えないアテンド。『迷子の音がしたからだよ』と言うんです。歩幅が狭くなったり、呼吸が浅くなったりするのが、音でわかるのだと。そうやって相手の些細な動作をキャッチできる。本人たちがネガティブに思ってきたことが、ここでは強みになるんです」

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暗闇のなかで迷子になったら、目の見えないアテンドがフォローしてくれる(撮影時のみマスクを外しています)

ダイアログ・ミュージアムは、体験者とってはとてもユニークなエンターテインメントだが、一方雇用面では、障害のある人たちがこれまで培ってきた知恵や文化を、スキルとして活かせる場ともなっている。

サイレンスのアテンドの1人、まっちゃさんは「聴覚障害を持つ人がスキルを活かせる場は手話教室や講演会が多いのですが、他にも活躍できる場所がないかと思っていて、この仕事にたどり着きました」と経緯を語る。また「将来、アテンドになりたい」と希望する人も多いという。

さらに、運営団体がスタート時から大切にしているのは、障害者の給与を、健常者と同じ賃金体系で支払うことだ。

ダイアログ・ミュージアムでは、現在、アテンドスタッフに時給1013円を支払っている。その理由を志村代表はこう語る。

「自分たちの夢は『税金を払うこと』という人がいるんです。いつまでも社会の役に立てない自分でいることは辛い、社会に食べさせてもらうのではなくて、税金を払えるような存在になりたいと。健常者と同じ賃金を払うことで、 社会が変わってきていると彼らに伝えたかった」
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文=丸山裕理

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