フォーブスジャパン編集部

メイクアップアーティストであり、僧侶でもある西村宏堂

アメリカと日本を拠点に活動するメイクアップアーティストであり、僧侶でもある西村宏堂。唯一無二のキャリアだが、さらにLGBTQ活動家としての顔も持つ。

西村は、自らは同性愛者だが、LGBTQの当事者としての体験を踏まえて性別や年齢に関係なく、悩みに寄り添いながら、少人数制のメイクアップセミナーも行なっている。

ニューヨーク国連本部UNFPA(国連人口基金)やイェール大学で講演したほか、SNSでも「性別も人種も関係なく皆平等」というメッセージを発信している。

今年夏には初の自著「正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ」(サンマーク出版)を出版した。

そのなかでは、西村自身がコンプレックスだらけだった過去から、同性愛者としてどのように胸を張って生きられるようになったのか、日本や海外での経験を振り返り、自分を大事にする生き方を説いている。

実は、今回、Forbes JAPAN Webの問い合わせフォームに、西村本人から直接の取材依頼があった。そのことに少し驚いたのは、昨年はネットフリックスの米リアリティ番組「クィア・アイ in japan!」に出演したり、これまでもCNNやBBC、日本ではNHKでドキュメンタリー番組が組まれたりするほど著名であるのに、依頼文には、丁寧に西村の熱い思いが綴られていたからだ。

なぜこのような特異なキャリアを歩むことになったのだろうか。取材依頼を受ける以前から気になっていたいくつかの疑問を胸に、西村が僧侶として奉職するお寺に、会いに行くことにした。

前編ではその「決断力」について、後編ではSNSとの向き合い方や発信について紹介したい。


東京都内に、西村が僧侶としての日々を送るお寺がある。夏の暑い日で、少し歩いただけでも私は汗だくだった。

「ようこそ、いらっしゃいました。暑いなかをお越しくださり、ありがとうございます」

西村は、少しかしこまった笑顔で私を迎えてくれた。全身モードな黒い服に身を包み、シャイニーブルーのアイシャドウが引き立ち、クールな印象だった。でもどこか優しげな雰囲気もあった。

「美」との出会い コンプレックスをどう乗り越えたか


西村は18歳でアメリカへ留学したが、それまで日本では同性愛者であることを親にも先生にも同級生にも打ち明けられず、人知れず悩んでいた。西村自身が「暗黒時代」と表す高校時代には、同性愛者だと気づかれるのが怖くてクラスメイトとも口を交わさなかった。中学時代からアメリカなら自分を受け入れてもらえるのではないかと、夢見ていた海外留学のため、放課後には英会話教室に通い、ただひとり英語の勉強に勤しんだ。

なぜ、苦しくても努力をし続けられたのだろうか。西村は「当時の私にとって、英語は救いだったんです」と振り返る。「日本でも本当は正直な気持ちを打ち明け、誰かと分かり合いたかったです。でもそれは難しく、留学するためには英語を勉強する以外ないという気持ちでした」

そんななか、密かに続けていることがある。中学生の頃、英語の先生と英語で交換日記をしていたことから、英語や日本語で日記をつけるようになっていた。高校生になると、怒りや悲しみの感情を記すことも多かったが、小さな目標をノートに書いて整理し、それを少しずつ具現化していくようになった。

今も西村が続ける「モーニング・ページ」というメソッドがある。頭がスッキリしている朝の時間に、ふと心に浮かんだ自分の気持ちや今日やりたいことリストなど、ひたすらノートに書き出すという習慣だ。モヤモヤしたときにも、自分の気持ちを書いておくことで感情の整理ができる。また、やらずに後回しになっていたことも一目瞭然となり、見返すと何をすべきか気づくことができる、というのだ。

文=督あかり 写真=Christian Tartarello スタイリスト=Leonard Arceo

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