「食わせる」データベースのイノベーションに、最速ブロックチェーンが果たす役割

データベースの扱いとブロックチェーンの掛け算が重要に

ビッグデータや人工知能(AI)、IoTなど、先端テクノロジーを社会実装していくうえで課題は少なくない。吸い上げた情報を集計・処理・保管する役割を果たすデータベースのイノベーションも、そんな課題のうちのひとつだ。テキスト、音声、画像、生体情報などなど、多様かつ膨大なデータを正確に集計・高速処理しつつ、複数のデータベース間で瞬時に共有可能な仕組みを持ち、さらにあらゆるサイバー攻撃への耐性を持った新たなデータベースの登場が待たれている。

革新的ブロックチェーン技術を保有する日本のベンチャー企業・アーリーワークスは、既存のデータベースの強みと弱点をそれぞれ分析し、ブロックチェーンの思想と技術を実装した次世代データベース「Grid Ledger System」(以下、GLS)の開発を進めている。最高執行責任者(COO)を務める上池佑介は言う。

「社会的にAIやIoTの活用が加速すれば、データトラフィック量もさらに爆発的に増加していきます。多くの企業やユーザーがテクノロジーの恩恵を受けるためには、ビッグデータの集計・分析・運用を念頭に置いた次世代データベースが必要になると我々は考えています。『RDB』や『NoSQL』など既存のデータベースにそれぞれメリット・デメリットがあるように、ビッグデータを扱う上でキーとなるデータの『共有性』と『確実性』を高めたGLSの開発・実用化を進めています」

上池がここで言う「共有性」とは、データベース間のデータを共有する効率や能力を指す。既存のデータベースはいずれも、例えばAからBというデータベースにデータを移動する際、特定のデータ形式でダウンロード・アップロードを行う必要があった。いくばくかのテキストベースのデータであればあまり大きな問題とはならないないだろう。しかし、多様な形式かつ容量が膨大なビッグデータであればどうか。時間や労力・コストがかかりすぎ、ビジネスシーンで利用するには非効率的だ。そこでアーリーワークスは、ブロックチェーンのコンセプトと同様に、データベース間のデータ共有を自動化する機能を実装することで「共有性」を高めようとしている。

一方で、「確実性」とは「データが消失しない」もしくは「外部から改ざんされない」ということを意味する。

「近年、データの量と価値が上昇することと比例して、サイバー攻撃による情報漏洩やシステムダウンが急増しています。攻撃の種類も多様化しており、複数の対策を常に更新しなければならずコストも増加傾向にあります。弊社が開発を進めるブロックチェーン型データベースであるGLSは、改ざんやサーバーダウン、情報流出を防止する能力が高く、従来のデータベースよりもセキュリティ的に優れています」

共有性と確実性の両立


なお従来のブロックチェーン技術には、データベースに応用できない理由がいくつかあった。ひとつは処理スピードだ。ブロックチェーンの詳しい仕組みに関する説明はここでは割愛するが、アーリーワークスはそれまで世界最速と謳われていたブロックチェーンよりさらに15倍以上も処理スピードが早い技術を開発。データベースに応用できるレベルを確立することに成功している。

アーリーワークスが開発するブロックチェーンデータベースおよびシステムは、あらゆる情報を解析し個人に特化したプロダクトやサービスをレコメンドする「パーソナライズ」を可能にし、スマートコントラクトによるサービスの効率的な連動を実現しうる技術的なベースになるとして、各業界のクライアントとともに導入・検証が進められている。今年中には、データベース単体での販売開始も念頭に置いているという。

「『共有性』や『確実性』、リアルタイムでの処理能力が高いブロックチェーンデータベースの普及は、AIやIoTなどの活用に拍車をかけるだけでなく、個人がこれまで労力を割いてきた個人証明や契約などの作業を効率化・デジタル化する近道になるでしょう。また大局的には、『Society 5.0』の実現を担保するテクノロジーになりうると考えています」

データは「21世紀の石油」とも表現されるが、その実、上手く活用し、利益に直結できている国や企業は世界を見渡してもそれほど多くはない。「データがあってもうまく処理できず使えない」というがその理由のひとつだ。シンプルかつ安全、また低コストな「データ処理の仕組み」が確立されてこそ、誰でもデータを利活用できる時代が真に到来するのではないだろうか。データの価値を引き出す新たなイノベーションに引き続き注目していきたい。

連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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文=河 鐘基

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