ノルドストリーム2はバルト海を通ってロシア北部とドイツを結ぶもの。ロシア国営天然ガス企業ガスプロムと欧州の多くの企業がパートナーを組んでおり、ドイツからは石油・ガス大手のユニパーやヴィンターシャルが参加している。
ノルドストリーム2は稼働中の「ノルドストリーム」に沿って建設されており、以前にガスプロムの欧州への主要な輸送路が通っていたウクライナの迂回を図ったとみられている。この事業が事実上、米政府の政治的な標的になったのも、ウクライナ情勢が理由だった。
ドイツの大衆紙ビルトによると、ナワリヌイの事件を受けて、アンゲラ・メルケル首相の与党キリスト教民主同盟(CDU)ではフリードリヒ・メルツらが事業の2年間凍結を求めている。ロシアで被害に遭ったナワリヌイは、その後ドイツの病院に移送されて治療を受けている。
ただ、メルツのような主張はまだドイツを代表するものにはなっていないようだ。ドイツの経済団体幹部は5日、事業を放棄すればドイツ側に何十億ユーロもの損失が出ると警告。ハイコ・マース外相も6日、「事業の中止を求める人はその影響についても理解しておかなくてはいけない」とくぎを刺した。
ガスプロムの欧州側パートナーには、英国のシェル、オーストリアのOMVなども含まれるが、最も重要なのはドイツ当局だ。
一方、米国では財務省が上院の指示に従い、ノルドストリーム2に関わるインフラ企業に対する制裁措置を用意している。そのため、ドイツでもこの事業に対する制裁が取り沙汰されるようになったのは、米国にとって願ってもない展開だった。ドイツはこれまで、今年の稼働に向けてパイプラインをスケジュールどおり建設することに力を注いできた。
ノルドストリーム2では、年間550億立方メートルのロシア産の天然ガスがドイツに送られる予定となっている。これは基本的に、ドイツで太陽光や風力による発電が先細った際のベースロード電源による発電をまかなえる量だ。
米国の対ロ制裁はインフラ事業者を標的にしたため、このパイプラインの敷設に影響が出た。だが、制裁法の改定により、今度はパイプラインの認証が脅かされている。認証がなければ、パイプラインは稼働を開始できない。
ドイツ政府はもともとは、ノルドストリーム2に関わる企業を対象とした米国による現行と将来の制裁の影響を緩和する保護の仕組みを整備するとみられていた。ユニパーとヴィンターシャルはこの事業にそれぞれ9億5000万ユーロ(約1200億円)を出資している。
ロシアの関与が疑われる新たな事件により、ノルドストリーム2は、欧州とロシア、米国の思惑が交錯する政治的な難題になりつつある。