インフルとコロナの区別ができなくなる?
検査体制の強化以外にもできることがある。それはインフルエンザ(以下、インフル)ワクチンの接種だ。なぜ、コロナ対策でインフルワクチンなのか。それは、インフルとコロナ感染は発熱や上気道症状を呈し、臨床症状では区別できないからだ。
また、インフルとコロナは同時に感染することがあるし、抗原検査やPCR検査が陰性でも感染は否定できない。今秋以降、インフルとコロナが同時に流行すれば、発熱患者は全てコロナ感染の可能性があるとして取り扱わねばならなくなる。
インフルは秋から冬の1シーズンで1000万~1400万人程度が罹患する。感染のピーク時には1日で約30万人がインフルと診断される。ということは、今年の秋以降、コロナの感染が否定できない発熱患者が大量に生まれる可能性があるということになる。
さる6月24日に、中国国家衛生健康委員会が、中国国内の1日あたりのPCRの検査能力を、3月はじめの126万件から378万件まで拡大したと発表したのは、インフルの流行を念頭においたものだろう。
一方、9月1日現在、日本のコロナの検査能力は、PCR検査が約6万件で、抗原検査が約3万4000件だ。これでは太刀打ちできない。
日本が貧弱な検査体制で第一波をやり過ごすことができたのは、2019〜20年のシーズンは1月以降にインフルの流行が収束したためだ。発熱で病院を受診する患者も少なかった。もし、インフルが流行していれば、医療現場は大混乱に陥ったはずだ。
今秋以降、そのような状況になれば、コロナ感染が否定できない患者に対しては、長期間の隔離を勧めざるを得なくなる。読者の皆さんは、このような状況に陥るのは避けたいだろう。
そのためにはインフルやコロナに罹らないようにすべきだ。手洗いやマスクなど基本的な対策に加え、私はインフルワクチンの接種を強くお奨めしたい。インフルに罹らなければ、コロナ感染疑いとして扱われずに済む。
インフルワクチンがコロナを予防する可能性
実は、インフルワクチンの接種を推奨するのは、もう1つ理由がある。それはインフルワクチンが、コロナ感染自体を予防する可能性があるからだ。
今年の6月4日、米コーネル大学の医師たちは、イタリアの高齢者を対象にインフルワクチンの接種率と、コロナ感染時の死亡率を調べたところ、両者の間に統計的に有意な相関が存在したと報告した。インフルワクチンの接種率が40%の地域の死亡率は約15%だったが、70%の地域では約6%に収まっていたのだ。
もちろん、この結果の解釈に対しては慎重であるべきだ。インフルワクチンの接種率が高い地域は、経済的に豊かで健康状態もよい。両者の関係は単なる交絡かもしれない。ただ、彼らはこの点も解析し、その可能性は低いと述べている。