写真提供:Lexus
建設コストは、約100万円(1万ドル)。1000人の住人が1日1ドルずつ出し合えば、10カ月後には、地域住民で保有・管理することができる。2万リットル(L)のタンクで、1人50L、400人分の水が供給できる。
現在、貧困地域などで20L、4〜50セントで販売されている水だが、OSCの水を10セントで販売したとしても、タンク1万L分で100ドルの収入になる。年間約8カ月続く雨季に、例えば10日間雨が降り続ければ、1000ドル分の追加収入につながるという目算だ。
低金利ローンといった融資オプションも合わせて提案すれば、よりスピーディーに展開することも可能だ。ベルタワーのチームは、例えばキベラのスラム街に1000ユニット展開することができれば、水を汲みに行くための労働時間が90%削減され、公衆衛生の課題だけでなく、女の子の就学率の向上にもつながると見込んでいる。
デザイン賞の変遷と未来
2013年にローンチし、今年で8回目を迎えたLexus Design Award。今年は79カ国から2042件の応募があった。過去のグランプリ作品は、照明や服飾雑貨などのプロダクトデザインや素材・資材の提案などが中心だったが、今回はいわゆる「モノ」のデザインではなく、課題解決の事業モデルのデザインが評価され、グランプリ作品として選ばれたことは興味深い。
今回、審査員の一人を務めた米国の建築家ジーン・ギャング(Jeanne Gang)は、グランプリの決定にあたり、「デザインは時代によって、大胆な見た目や優れた機能性を提示したり、時にはユーモアやウィットに富んだものでしたが、気候変動や社会的な不公正をはじめ、世界が様々な問題に直面する今日、デザインには体系的に課題を解決することが求められています」とコメント。
また、OCSについては、「デザインの定義を経済システムにまで拡張させた」と評価し、よりインクルーシブで公平な社会の形成のための、未来のデザインの役割を予感させた。
今回、ケニア発の課題解決のスキームが、国際的なデザインのプラットフォームで評価されたことは、いわゆる「途上国の課題」というものが、もはや存在しないということも示唆している。
パンデミックをきっかけに、自らが住んでいる国、おかれている社会や経済状況に関わらず影響を受ける、「世界課題」というものの影響を、世界中の市民が体感することとなった。今まで体感しづらかった、地球環境の変化や、人・モノがグローバルに影響しあっているという事実を体感することで、課題やソリューションに国境はないということが改めて浮き彫りになっている。
ベルタワーが提示する、ケニア発のローコストなソリューションは、日本の地方や災害地域でも取り入れられる潜在性を持つ、地球規模のグローバル・ソリューションであるに違いない。
連載:旅から読み解く「グローバルビジネスの矛盾と闘争」
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