水上は、和洋女子大学服飾造形科に通う学生時代、お金もないため、自らリメイクをした服を着て楽しんでいた。また、当時アシスタントとして師事していた神田が手がけるブランド「keisuke kanda」はリメイクを得意としており、「服を再構築する」発想は水上のなかでは自然なものとして醸成されていった。
「私もデッドストック品のことはなんとなく頭にはあったけれど、掘り下げて考えたことはなかった。でも神田さんの言葉をきっかけに、そういった服をリメイクしていくのは面白そうだなと思って、社内で立ち上げてみようと決めました。神田さんをクリエイティブディレクターにお迎えして、会社にプレゼンしたのがスタートですね」
ビームス クチュール 2017年ファーストシリーズコレクションの商品
「一箇所だけ刺繍のところがあるんです」
ひと口に「リメイク」といっても、難しい点は多くある。素材、サイズ感、裁断の仕方がそれぞれ違うし、完成されているもの同士を新たに組み合わせて新しい1着にするには、想像以上に繊細な技術が必要だ。
「量産型と違って1個1個色決めやデザインをしなくてはいけないので、縫う人のセンスがとても出るのですよね。なので、実際にアトリエで縫ってもらう際の意思疎通はとても大事にしています」
服を小さく切って布の状態にバラしてしまい、それらを縫い合わせて新しいものにするのは簡単だが、水上はそれをしない。もともとデザインされたものを尊重し、なるべく服を切り刻まず、元のブランドのタグも残すようにしているという。
そのためビームス クチュールが販売するものには、ひとつとして同じ商品がない。デザインも違えばついているタグも違う。そもそもビームスが抱えるデッドストックはやむを得ず出てしまうものなので、ひとつの商品につき2〜3点ほどと、かなり少ない。
手前の3着のニットはこれから生まれ変わるデッドストック品で、奥のニットはリボンを付け足し、新たな商品として販売されるもの。同じニットでも3着とも色も素材も違うためそれぞれに違ったデザインが施される
例えば同じニットのリメイク品でも、袖の部分にリボンを結ぶようにいくつも付けて装飾するなど、シーズン毎に出す基本的なデザインは定めるが、それぞれのニットによってリボンの素材や付け方が変わってくる。
「なので倉庫に自分で行ってちゃんと物を見て、これとこれを合わせようというのを毎回やっているのでやっぱりかなり時間はかかります。でもそのぶん思いを込めているし、ずっと大切にしてもらえるんじゃないかなと思っています」
「一箇所だけ刺繍の部分があるんですけど、どこかわかるかな」と言われ探してみると、たしかにデニムプリントの花柄が1つだけ手縫いの刺繍になっている。目を凝らさないとわからず、見つけたときは嬉しくて思わず声を上げてしまった。
ビームス クチュールがリメイクし、生まれ変わらせた4着。こちらのデニムはもともと古着だったものを仕入れてリメイクした
水上が目指す服づくりとは「記憶に残る服」だという。
「ある友達を思い出すときに、どういう服を着ているかイメージが浮かんでくるような、記憶に引っかかるような服であればいいなと思います。初対面の人や友達と会ったときに何かツッコミたくなるみたいな。昔から服を見てコミュニケーションが広がったという経験をしていたので、そういうきっかけにもなれたら。けっして派手ではないけれど、どこか気になる存在、そんな服をつくれたらずっと長く愛してもらえるかなと思っています」