ビジネス

2020.09.10

アマゾンに挑戦状 ウォルマートが打ち出した3つの新戦略

Justin Sullivan/Getty Images


アマゾンプライムの「文化」に勝てるか


とはいえ、すでにアマゾンは消費者の生活にはなくてはならないものになっていて、ウォルマートの新サービスくらいでは揺るがないという見方も多い。

例えば、今回のウォルマートプラスは、生鮮食品サービスが魅力だとは言っても、35ドル分のミニマムオーダーという壁がある。まとめ買いをさせて送料を下げるこの売り方は、五月雨式に購入しても送料設定に違和感がないという、アマゾンプライムが実現した「文化」に抵触する(この文化は、送料に納得しない消費者が多いことをいち早く掴んだアマゾンプライムから生まれた)。

コロナ禍のもとでオンラインショッピングを飛躍的に伸ばしたのは、若い独身者や少人数世帯の利用者であり、生鮮食品を買うために35ドル分もまとめ買いをするのは、やや現実的でない。

さらに、ウォルマートは、たしかに規模は大きいが、規模の経済で原価を低く抑え、顧客に安く提供するだけでは、消費者は年会費を払ってくれない。

筆者は、かつてコストコの人気を分析したコラムを書いたが、コストコは安いから行くだけでなく、そこにはコストコでしか得られない買い物の「楽しみ」があり、だから消費者は高い年会費を払うのだ。

楽しみという点で言えば、例えばアマゾンプライムではストリーミングコンテンツが無料で見られるサービスがあるし、プライム会員であれば無料で聴ける音楽のコンテンツも多い。

それに比べて、ウォルマートは、今年の4月にオンラインストリーミングのVuduをオンライン映画チケット会社に売却して、その分野からは事実上の撤退をしている。現在、ウォルマートはTikTokへの買収交渉に入っていると伝えられているが、動画のソーシャルメディアとオンラインストリーミングでは求めるものが違う。

これまで、世間の反応は、アマゾンとウォルマート、どちらに軍配を上げるかはきれいに2つに分かれているように見える。いや、それ以上に、2つは結局、競り合わず、共存し続けるのではないかという見方も多い。

その理由は、実はこの2つの巨人が、VIPを共有しているからということのようだ。

ニュースサイトのVOXによれば、ウォルマートのトップ消費世帯の半分以上がすでにアマゾンプライムの会員になっている。

つまり、消費者が似たサービスの両方の会員になることは考えにくいことから、「これ以上、ウォルマートのファンをアマゾンプライムの会員にさせない」というウォルマートの防衛的な戦略とも言える。

通常時ではなかなかアマゾンに対して勝ち目はなくても、コロナ禍で人々が外に出ることを控えるなか、この3つの戦略でならアマゾンに勝てる。そこからアマゾンプライムの会員をウォルマートプラスに変えさせることができるだろうという算段だ。

一方、アマゾンも、8月末にとうとう、7年越しの懸案であったドローン配送の許可をアメリカ連邦航空局から取りつけた。さらに、食品スーパーチェーン「アマゾンフレッシュ」の第1号店をロサンゼルス近郊に実験オープン(当面は招待客のみ)した。リアル小売店舗業界への殴り込みで、そこではアレクサなどが店内でフル活用されるらしい。

アマゾンとウォルマート、ともにコロナ禍で大儲けをした企業であり、株価もコロナでやられるどころか絶好調で伸ばしている。圧倒的な資金調達力を背景に、技術投資やビジネスモデルの改革にこれだけ迅速なのはさすがと思わせられる。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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