ビジネス

2020.09.24

間引きか、全席埋めるか? 航空業界の死活を分ける「座席販売」戦略

2020年6月、マスクを着けた人々がソーシャルディスタンスを保ち、カイロからエジプトのハルガダまで飛行機で向かう様子。


全席販売の利点と限定販売の利点


ゲーム理論の利得表を用いてモデル化をしてみよう。これは30日間の業界の収益を見るために私が考案したものであり、全席販売にするか限定販売にするかは2つの会社がそれぞれ自主的に決めたものとする。



上記の表を見れば、2社がともに限定販売をすれば、両社とも販売しない座席からの収益を捨てることになるので、業界の収益は減少するのがわかる。けれども、ある会社が全席販売をし、その他の航空会社が限定販売をした場合、全席販売をする会社がわずかな利益を得るのは、他の航空会社が抑制した分の収入が増えるからである。30日という短い期間なら利用者の信頼感の変化は小さいので、全席販売は理にかなった選択になるだろうが、限定販売した会社の損失もさほど大きくはない。だが、期間を6カ月に延ばしたらどんな影響が出るだろう? その場合の収益についての私の見解は以下のとおりだ。



これを見れば、期間を延ばした場合は、限定販売を選択した2社の総需要がきわめて速く回復することがわかる。つまり、両社ともこの期間で得られる最大収益を手にすることになる。もし、両社が次の6カ月間に全席販売を選んだら、収益は上がるがその上昇率はずっと小さくなる。多くの顧客がなおも混み合った機内を恐れて、飛行機での移動を選ぶ気にならないからだ。

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フェニックスのスカイハーバー国際空港に駐機するアメリカン航空の旅客機。アメリカン航空はすべてのフライトで全席販売を行っている。

航空会社各社の未来は──


上記の表のようなものは、自分の意見を通すために好きに作れることは認めてもいい。だが私は、これらの表がおおむね理にかなったものであると自信を持っている。利用者が飛行機を安全に利用できると確信するまでは、航空会社は大きな需要を取り戻せないだろう。だから、幅広い利用者の絶対的な信頼を得るには、今後数カ月のあいだに乗客が実際に体験することが特に重要になる。アラスカ航空、デルタ航空、ジェットブルー航空、スピリット航空がそう考えているのは明らかで、私も同じ考えである。

ユナイテッド航空、アメリカン航空、サウスウエスト航空が、長期的に見ても自分たちが現在行っていることは業界全体の需要にさほど影響をおよぼさないと考えているのはわからないでもない。だが、その考え方には賛成できない。

面白いことに、こうした議論が行われているのはアメリカだけのようである。レンタカー比較および予約サイト企業のCarTrawlerとコンサルタント企業のIdeaWorksが最近出したレポートを見れば、世界の航空会社25社が新型コロナウイルスの問題にどのように取り組んでいるかがわかる。アメリカ以外の国では中間の座席を使用停止にするよう求める人はいないらしい。先行きがきわめて不透明で、航空業界への長期需要傾向がどうなるかまったくわからないいま、短期戦であれ長期戦であれ、航空会社は乗客を安心させられるようにあらゆる手段を講じるべきである。

翻訳・編集=中田しおみ/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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