東京の感染拡大再発とニューヨークの抑制成功から浮かび上がる日本の謎


日本モデルの成功は長続きしなかった。休業要請が次々と緩和され、大規模集会も、感染症対策を徹底するという条件付きで再開されるようになった。6月に入ると、まず東京で、その後全国で、感染者数はじりじりと上昇し始めた。東京の感染者数は、7月中旬には、4月のピークを越えてさらに上昇した。8月1日には、東京で472人の感染者数を確認、全国でも1500人を超えた。

一方、ニューヨーク州の新規感染者数は減少を続けて、8月1日には531人まで低下した。その結果8月1日の10万人当たりの一週間平均で見ると、東京で2.3人、ニューヨーク州では3.3人と、僅差となった(同指標は、6月1日には東京で0.1人、ニューヨークで6.7人だった)。

感染対策でも東京とニューヨークの差は縮まらない。

PCR検査数ではニューヨーク州では一日7万件の検査をしているものの、東京では5千件にすぎない。ニューヨーク市ではいまだに、レストランの屋内飲食は禁止、アルコールが提供されるバーなどでも感染症対策が徹底させられている。守られていない店舗では、酒類提供免許のはく奪などの対策が取られている。

この東京の感染拡大の再発と、ニューヨークの抑制の成功の継続を見ると、日本のもうひとつの謎が浮かびあがる。なぜPCR検査を拡充して、感染拡大の実態をとらえる努力をしないのか。また、なぜ、(法律改正をして)強制力と罰則規定のある休業要請を行わないのか。次回でその検討をしてみたい。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学特別教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002~14年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。

文=伊藤隆敏

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