「ライフ・シフト」著者が語る、コロナ時代の人生戦略

リンダ・グラットン教授(左)とアンドリュー・スコット教授(右)/ Getty Images


──コロナパンデミックの大きなうねりの中で、私たちは100年先の未来ではなく、果たして明日はどうなるのかという短期的な展望しか語れないような生活を余儀なくされていますが、そうした恐怖からどのように抜けきるようにするべきなのか。その見解や解決法について、何か有効なアドバイスは?

スコット:この問題は世界的なものであり、これから先を賢く生き抜くためには「教育」がより一層大切になってくると思います。さらに政府は国民にセーフティネット、つまり、最低限の生活を保障する経済的な社会支援政策を明確に示す必要があると思います。現在は、つい暗い考えが頭をもたげる人が多いかと思いますが、肯定的な見方をすると、コロナ禍をきっかけに地方経済が再生し、スタートアップビジネスが増えてくるという側面も考えられます。

グラットン:マルチステージライフの提案がより大きな課題となり、新しいスキルの習得がより一層大切になってくるはずです。そして、そういった側面から言っても、年齢に限らず生涯を通して学び続けることが大切で、国家的な教育投資は不可欠な政策となってくると思います。

たとえば、シンガポール政府は、市民がスキルを習得するために特別な国家予算を設け、国家プロジェクトとして推進しようとしていますし、マイクロソフトも自社の従業員だけではなく、コミュニティーの人たちに教育システムを提供しています。

さらに、今回のコロナ禍では、家族の絆がいかに大切かということが浮き彫りになってきたことも事実です。日本の場合、リモートワークが許される環境になれば、人々は東京に住む必要がなくなり、地方に移住する人が、これから先ますます増えてくる可能性があります。

現在、イギリスでは、ロンドンにメインオフィスを構えるより、各地方にハブオフィスを持つというような方向転換が急速に進んでいます。たとえば、地方の自然に恵まれた環境の中で子育てをし、子供たちが独立した後、ある程度の年齢に達してから利便性のあるロンドンに移るという選択もあり得るわけで、コロナ禍以降は大都市に住むということにそれほどの価値を感じなかったり、疑問視する人たちの数が増えてきています。

では、果たして日本国内でもそのような動きが実現するのか? 現在、地方の過疎化現象が進んでいる日本では、コロナ禍以降の地方経済活性化が日本経済の発展に大きく貢献するはずです。そういった意味でも、今後もコロナ禍以降の日本社会の推移を見守る必要がありそうですね。ただ、一つ問題なのは、自宅勤務をすることがキャリアプランやプロモーションに影響するのではないかと不安視するする人たちもいて、こうした点に関しても、メディアの役割が重要になってくるのではないかと思います。

スコット:ロンドンや東京を離れた地方都市でも文化的で質のある生活を楽しむためには、コミュニティー活動を活性化する必要があるわけで、日本社会の課題はその点にもあるのではないでしょうか。
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文=賀陽輝代 構成=谷本有香

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