「ライフ・シフト」著者が語る、コロナ時代の人生戦略

リンダ・グラットン教授(左)とアンドリュー・スコット教授(右)/ Getty Images


1. 感情の揺らぎ現象

まず、コロナは私たちの習慣や理想といった観点を根底から覆し、Emotional Unfreeze、つまり「感情の揺らぎ現象」を起こしたといえます。リモートワークを含めて、既にライフスタイルの変化は起こっています。3月末にアンケート調査をした結果、元のライフスタイルに戻りたいといっている人たちは全体のわずか1%という状況で、コロナ後のライフ・シフトは急速に変化しています。

2. リモートワークから浮き彫りになった課題

リモートワークを可能にしてくれる、テクノロジー面で問題を指摘する人たちはほとんどいませんでしたが、一番大きな問題として「アイソレーション(孤立)」を挙げた人たちの数はかなり多く、そこでは「家族の繋がりの再認識」や「ストレステストの挑戦」など、新しい課題が生まれてきたといえます。

そして、この時点で日本では約50%の人たちがリモートワークを受け入れる体制が整っていて、リモートワークを継続することに何の問題も感じないと言っています。ただし、小さい子供を抱えている家庭でのリモートワークは、仕事と子育ての両立に苦戦を強いられている人たちも数多くいるようです。特に日本の場合は、保育所に子供を預けて仕事場に向かうという両立のシステムが確立されていて、自宅から仕事をするコロナ後の新しい生活リズムに順応するのが難しいと感じている面もあるようです。

こうした状況の中、日本の社会が学ばなければいけないことは、働く女性の「育児負担軽減」であり、男性の育児休暇を含む、育児の男女負担への更なる認識の必要性がコロナ禍を通して改めて浮き彫りになってきていると思います。

3. ネットワークの縮小化

また、他の問題点として挙げられることは、リモートワーク化が進んで、事務所での共同作業が少なくなってくることによって起こり得る「ネットワークの縮小化」です。そうした状況の中、今後イノベーションを推進するためには、職場の同僚との繋がりだけではなく、仕事を離れた時間と空間の中で起き得る多様なネットワーク構築が必要になってきます。

特にこれから先イノベーションがより重要な課題になってくる日本の産業界にとって、今後はこうした問題についてより詳細な観察が必要になってくるものと思います。

4. コロナ後の理想的社会を模索

そして、このコロナ禍をきっかけにして、私たちはこれから先どのように行動するべきなのかを考え、より住みやすい社会構築を目指して前進する必要があります。たとえば私は富士通の社外コンサルタントを務めていますが、今回のコロナ問題に際し「オフィスとは何なのか?」「誰が子供の面倒を見るのか?」「どのようにリスク負担の舵取りをしていくのか?」などの多岐多様な質問について皆の意見に耳を傾け、フィードバックする作業を進めました。

もちろん、「What shall we do?」という試行錯誤の作業はこれからも継続していく必要があると思いますが、このパンデミックに対する的確な処方箋があるわけではなく、今は世界各国のリスク体験を参考にしながらさまざまな検証をしていくことが必要になってくると思っています。

5. 解凍された問題

コロナの影響で、リモートワークを含めて「今まで冷凍(Freeze)されて、実現できなかった問題」が一応「解凍(unfreeze)されて解禁状態になった 」わけですが、世界的な不況に陥るかもしれないという疑心暗鬼から、せっかく手に入れた「解禁状況」を再び「冷凍状態」にして、昔のパターンに戻る必要はないはずです。

つまり「柔軟な対応(Flexibility)」は「生産性を低くする(Low Productivity)」という認識を持たず、むしろ「高い生産性(More Productive)」を生み出す原動力であることを証明して行く必要があるわけです。そうした観点からもメディアの役割は今後ますます重要になってくると思います。
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文=賀陽輝代 構成=谷本有香

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