オバマ絶賛の映画が問う「もうひとつのアメリカ」 監督に聞く

中国系アメリカ人映画監督のビン・リュー

当時、20代だった中国系アメリカ人の映画監督、ビン・リューは、10代を過ごしたイリノイ州ロックフォードを舞台に、若いスケートボード仲間の映像を撮り始めた。街中を縦横無尽に滑走する映像から始まり、彼らのインタビューを重ねるうちに、ドキュメンタリーのストーリーが生まれた。

その映像は数年後、時代を象徴するドキュメンタリー映画として、第91回アカデミー賞と第71回エミー賞にノミネート。59もの映画賞を受賞し、オバマ前大統領の「年間ベストムービー」にも選ばれた。

その経緯をビン監督はこう語る。

「もともとは(普通の)スケートボードのビデオを撮ろうとしていた。しかし、彼らが抱える家庭での消化できない悩みや感情を知り、スケートボードの様子を撮るだけでなく、彼らに家族や人間関係、スケートボードとの関わりを聞くプロジェクトにしようと決めた。各地で話を聞く中で、故郷ロックフォードの2人を取り上げることになった」

舞台となった米東部に位置するイリノイ州ロックフォードは、2013年に米フォーブス誌に「全米でもっとも惨めな都市ランキング3位」に選ばれたこともある、ラストベルト(さびついた工業地帯)の典型的な工業都市だ。

第二次世界大戦後、製造業の発展とともに栄えたが、企業の海外移転が相次ぎ、中心部の空洞化が進行する中、2008年の世界金融危機で不動産価格が暴落、深刻な経済的打撃を受けた。全米平均を上回る高い失業率と貧困率、犯罪発生率を抱え、長く経済停滞が続く。家庭や教育環境の悪化も指摘されている。

「僕が育った1990年代は、これからだという楽観的な雰囲気があった。2000年代に入って、その雰囲気はなくなった」とビン監督は言う。

映画は、監督のスケートボード仲間である、2歳下のザックと6歳下のキアーの2013年から17年までの4年間を中心にした12年間の記録だ。

「ザックは昔から少し知っていて、すごくカリスマがあってみんなの憧れだった。彼が若くして父親になると聞いて、すぐに出産日の撮影が決まった。キアーは初対面から深い感情の話が聞けて、彼の物語のなかに自分自身を見ているような気持ちになった」

友人だからこそ撮影できた、彼らの一瞬の表情やまなざし、飾らない言葉や会話の一場面を通じて、登場人物に自然と親しみがわく。そこから経済大国アメリカのもうひとつの素顔が垣間見られる。

写されたのは、ザックとキアー、監督のビン、その家族や友人が直面してきた日々のさまざまなギャップだ。親子、人種、お金、仕事、学校、地域、男女、人間関係。そのギャップから生まれる暴力のサイクル。背景には、ラストベルトだけでなく、経済格差が拡大する社会で広がる閉塞感と将来不安が重く横たわる。だが、スケートボードと若者たちの成長を通じて希望が少し見えてくる。
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文=成相通子

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