コロナ禍で支持が加速するベーシックインカム、そこに潜む悪影響

Photo by Scott Olson/Getty Images

「ユニバーサル・ベーシックインカム(全国的な最低所得保障)」と呼ばれる概念が、米国や欧州で支持を集めつつある。とりわけ、新型コロナウイルス感染症が経済に与えた大打撃により、この動きには拍車がかかっている。この制度が現実になれば、働いているか否かにかかわらず、すべての成人が政府から毎月一定額を給付されることになる。

民主党の活動家たちはこの制度を熱烈に支持している。共和党の一部も同様だ。ローマ教皇も支持を表明した。民主党の大統領選予備選挙に出馬したアンドリュー・ヤン(Andrew Yang)は、すべての成人への毎月1000ドルの支給を提唱した。ヤンは予備選に勝てなかったが、その主張は人気を博している。

イタリアには、所得が一定水準を下回った場合に不足を補う最低限所得保障制度がある。スペインも同様の制度を設けている。

ヤンの提案は魅力的に聞こえる。年1万2000ドルを余分にもらいたくない人などいるだろうか? ただし、こうした制度が実現すれば、悪影響も生じることになるだろう。

はっきりさせておきたいのは、ここで話題にしているのは、食料補助のためのフードスタンプや失業給付金やメディケアのようなセーフティネット制度ではないということだ。所得が保障されれば、人々の労働倫理は蝕まれるだろう。選挙が近づくたびに政治家が給付額を引き上げれば、なおさらだ。こうした制度は、努力と報酬のあいだにある重要な結びつきを弱め、多くの人を誘惑し、より生産的な生活の追求をやめさせることになるだろう。それは、倫理的も経済的にもまちがっている。

人生を意義深いものにするためには、仕事が必要不可欠だ。仕事は目的を与えてくれる。枠組みを与え、規律を促し、いまこの瞬間の先を見通し、未来について考えるのを助けてくれる。そして、米国文化独特の「やればできる」精神を鼓舞する。仕事は、私たちが消費するリソースを生み出し、私たちの生活水準を高めるイノベーションを生み出してくれる。

さらに、ベーシックインカム制度を導入しようとすれば、現実的かつ大きな問題が出てくる。この制度にはおそろしく費用がかかるのだ。ヤンの提唱する制度の場合、年3兆ドルが必要になると見積もられている。ヤンはその財源として、我々がすでに払っているもろもろの税金に加えて10%の付加価値税を課すことを提案していた。そして現実的に考えれば、税率はそれよりも大幅に高くせざるをえないだろう。現在3万ドルの車は、ヤンの計画のもとでは、3万5000ドルから4万ドルを払わなければ買えないということになるだろう。

そうした負担の大きい税金が新たに導入されれば、資本が確保できなくなり、所得増加と生活水準の向上に欠かせない生産的投資が落ち込んで、経済がダメージを受けるだろう。経済が停滞すれば、機会が減少し、格差が広がることになる。

それよりも建設的なアプローチは、実質的な給与税の還付である勤労所得税額控除(EITC)の改革と拡充だろう。これにより、低所得者の給料にかかる税金を控除し、手取り額を引き上げることができる。

そして、減税のような、経済を活気づけるための条件を整えることこそ、あらゆる人に利する政策になる。コロナ以前には、低所得労働者の賃金がほかのどの層よりも速いペースで上昇していたことを忘れてはいけない。

翻訳=梅田智世/ガリレオ

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