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2020.09.02

事業会社から調達する前に知るべき3つの投資体制の違い

独立系ベンチャーキャピタルが増え続ける中、日本のスタートアップは引き続き資金の多くを事業会社/CVCから調達しています。以前なら「オープン・イノベーション」、最近では「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」などをキーワードに、投資活動を行う事業会社に注目が集まっています。流行のバズワードがなんであろうと、事業会社がスタートアップに関わりたがっているという事実には変わりがないようです。

実際、私はよく起業家から「〜という事業会社/CVCから資金調達することについてどう思う?」と聞かれます。それは個々の状況によって異なるので、いつも「場合による」と答えています。しかし、あまりにも頻繁に聞かれる質問なので、考慮するべきポイントとして起業家との話し合いの際によく提案するものをこれから紹介したいと思います。長くなりますので、シリーズ記事として数週間にわたって説明する予定です。

まず何よりも先に、相手がどういったタイプの事業会社/CVCなのかを知っておく必要があります。具体的には、どのような体制や仕組みで投資しているかが重要です。基本的には、(1)バランスシート型、(2)ファンド型、(3)二人組合型の3つのどれかに分類されます。これらの主な違いを理解することで、それぞれを動かすインセンティブや、資金調達の際に起こり得ることなどを推測することができます。

(1)バランスシート型

ほとんどの事業会社は、自分たちのバランスシートから投資資金を引っ張ってきます。この方法が最も投資を始めやすく、また、やめるのも最も簡単です。一般的には、投資専用の事業体などを作らないため、投資チームのメンバーも従来の内部承認プロセスに則って行動します。例えば、1億円以下の投資なら部長クラスが決定権を持ち、5億円以下なら社長、それより上は取締役会での決議が必要、などです。

この方法は参入障壁が非常に低いので、必ずというわけではありませんが、スタートアップへ長期的に投資していくことにコミットしているのか、その本気度を測りかねる場合があります。組織として優先するべき課題は常に変化しているので、トップが2年後に「スタートアップへの投資はもう重要ではない」と判断し、投資チームを解散させてしまうこともあり得ます。結局のところ、事業会社にとって投資は本業ではなく、組織全体の戦略を補完するための手段の1つに過ぎないのです。

また、バランスシート型の投資は2つの要因によって本質的に短期的になりがちです。まず、日本のほとんどの企業は人事ローテーション制度を採用しているので、3年程度で投資チームのメンバーが全く別の部署の人間に入れ替わってしまう可能性があります。また、投資チームのメンバーにキャリー(投資の利益の一部を個人が受け取る報酬)が与えられていないので、長期にわたって投資を成功させるインセンティブが生まれません。この点によって生じる問題については、また別の記事で今後説明したいと思います。
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文=James Riney

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