この研究では、整合性と客観性を維持するために、経験を積んだ放射線技師4人が、すべての患者のレントゲン検査結果と画像を検討・分析した。
研究ではさらに、結果を確定するための客観的尺度を設定。負傷した体の部位と深さの両方を精査するカテゴリー別評点方式などにより、IPVによる外傷全体の重症度を判断した。
研究論文の著者たちは、こう結論している。「新型コロナウイルス感染症パンデミックの最中には、過去3年間と比較して、IPVの発生率と重症度が増した。こうした結果は、IPV被害者がパンデミック中に医療機関に助けを求めるのが遅れた結果、虐待の段階がかなり進んだことを示唆している」
パンデミックをきっかけにしたロックダウン(都市封鎖)と規制で、ドメスティック・バイオレンス(DV)が増加するのではないかという懸念はすでに高まっていた。パンデミックの真っただ中にあった2020年春ごろには、世界中で何十億もの人々が自宅に閉じ込められた。多くの政府や自治体が、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を抑えようと、外出禁止令を出したためだ。
そうした措置が新たな問題の発生を招いた。人々が家に閉じこもることを余儀なくされたことで、DVの危険が増したのだ。国連(UN)事務総長アントニオ・グテーレス(António Guterres)は4月はじめに、この重大な問題を取り上げている。
グテーレスは声明で、次のように強く求めた。「新型コロナウイルス感染症を抑制するためには、ロックダウンと隔離が不可欠であることを私たちは承知している。しかしそうした措置は、虐待するパートナーを持つ女性たちを危険な立場に追い込んでしまう可能性がある。支援を求めて電話をかける女性の数が倍増した国もある。私はすべての政府に対し、新型コロナウイルス感染症対応計画の重要項目の中に、女性に対する暴力防止と救済を盛り込むよう強く求める」
グテーレスは声明を次のように締めくくった。「女性の権利と自由は、回復力のある強い社会にとって欠かせないものだ。私たちは、戦場から人々の自宅にいたるあらゆる場所において、ともに新型コロナウイルス感染症と戦いながら、暴力を防ぐことができるし、防がなくてはならない」
米国家庭医療学会(AAFP)のウェブサイトには、IPVについてこう書かれている。「米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、妊娠可能年齢にあるすべての女性患者について、IPVの有無を確認するためにスクリーニングを行うよう勧めている。いくつかの簡易スクリーニングツールは、IPVの発見に効果があることが実証されており、診察室で活用できる」
実際、DVなど暴力の被害に遭っている患者の多くにとっては、かかりつけ医に定期的に足を運んで医師と面会することが唯一の休息であり、希望を見出せる場であるかもしれない。ところがここ数か月間は、ロックダウンによって外出が規制されたことや、感染に対する一般的な恐怖から、かかりつけ医に受診したり医療機関を利用したりする患者の数が大幅に減少し、スクリーニングの貴重な機会が失われている。
新型コロナウイルス感染者が世界的に増え続け、感染の第二波に襲われている国も多いことから、近い将来、新たな規制やロックダウンが実施される可能性は高い。世界がまもなくインフルエンザの流行する季節を迎えることを思えばなおさらだ。
各国政府や政策立案責任者はすみやかに行動し、パンデミック中に悪化するIPVの危機に対応しなければならない。何の手も打たずに犠牲者を出すのは許されないことだ。