「オフィスに戻りたくない症候群」が続出? NYが迎える複雑な秋

テレワークの生活リズムを確立したニューヨーカーも多い(Alexi Rosenfeld/Getty Images)


人々の働き方に関して言えば、マンハッタンの日系の小売店やレストランでは、復職や再開の状況はまだら模様だそうだ。失業給付金が出されていれば、復職するよりそのまま失業状態を継続したほうがいいという理由で、復職が遅れている例も見受けられるという。

これは人間の性(さが)としては仕方がないのかもしれない。社会保障が手厚すぎることで就職意欲の低下に結びつく場合もある。そのため、共和党では復職給付金を出し、むしろ復職を促したほうが良いという意見も強いが、7月末で一旦切れた失業給付金の上乗せに変わる法案については、8月は議会が夏休みということもあってストップしたままである。

テレワークも5カ月が経ち、ニューヨーク州は9月のレーバーデー(Labor Day)の休暇明けから、人員を段階的に25%、50%とオフィスに戻すガイドラインを出している。会社側がガイドラインに沿って復職を促す動きもあるが、社員はワクチンができるまではできるだけテレワークで現状維持をし、オフィスにも行きたくないと警戒感が強い。

これには、最近テレワークの生活リズムが確立してきたことも一因ではないかと思っている。テレワークとは言っても、仕事の合間にちょっとした家事もでき、上司との対面ストレスもなく、感染の危険がある電車やバス通勤もなく、通勤時間も浮いて時間が節約でき、全体から見ればプライベートの時間も増えることになる。

いわば「半労半休」状態でバランスが取れ、「今のそれなりに快適さもある生活リズム」に慣れてきてしまっていることも、オフィスに戻りたくない心理的な要因になっているようだ。「オフィスに戻りたくない症候群」、新学期を目の前にした学生が抱く夏休みの終わりのような抵抗感なのかもしれない。

失業率はリーマン直後の水準のまま


リーマンショックのときもそうだったが、雇用主側は人手不足の状態にならないと採用を増やそうとしないため、いったん失業者が増えると、なかなか簡単には回復しない。このコロナ禍でも同じ現象が起きている。

リーマンショックでは、直後の2009年10月に失業率が10%に達し、800万人の雇用が失われた。1年半後の2011年2月になっても、わずか100万人の雇用が回復したに過ぎなかった。結局、直前の失業率6.5%に戻るまでに5年3カ月を要し、2014年1月まで待たなくてはいけなかった。

オフィスで働く人が増えなければ、オフィス需要、住宅需要、個人消費、観光収入などの劇的なV字回復は見込めないし、こんな状況では雇用の伸びの足取りも鈍くなるのは当然だ。

まして当時よりインターネット回線のスピードも速くなり、通信容量も増え、端末PCの処理速度も伸び、ソフトとしてもリモート対応が普及してきたとなれば、オフィス勤務への復帰が遠のくのは必然だろう。

2020年4月に14.7%まで跳ね上がった失業率は、7月には10.2%まで回復してきているが、失業率は、リーマン直後の水準と同じで高止まりしている。

ニューヨーク市のクイーンズ区は、4月には特に感染の中心地となっていたが、いまは落ち着きを取り戻している。逆に、ニューヨーク市から東、細長いロングアイランドの先のサフォーク郡は、夏に海水浴客らなど多くの人が滞在したことで感染者数は7万人を超え、クイーンズ区を抜く勢いだ。そのサフォーク郡で夏を過ごした人々が、再びニューヨーク市に戻ってくることになるが、いまから感染の再拡大が懸念されている。

アメリカ全体での新型コロナウイルスの感染者数は610万人を超えたが、ニューヨーク市は、さらなる感染を防止しながら経済再開に向けて動きつつある。しかし、まだ経済再開は「半身」ゆえに、ゆっくりとしかリスタートを切れない複雑な秋を迎える。

連載:ポスト・コロナのニューヨークから
過去記事はこちら>>

文=高橋愛一郎

ForbesBrandVoice

人気記事