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深澤直人(左)と、石川俊祐(右)

世の中には今、デザインという言葉が溢れている。

どんな問題も解決してくれる、あるいはクリエイティブな思考を促すマジックワードのような扱いだ。しかし、これらが指しているものの多くが表層的ではないだろうか。

実際に本来の意味での「デザイン」ができているものは、驚くほど少ない。そして社会が大きく変化する今、このような付け焼き刃的なアプローチの綻びがあらわになりつつある。

そんな危機感をきっかけにスタートしたデザイナー石川俊祐による新連載「石川俊祐のデザインの本質」。石川はデザイン思考の草分けとも言えるIDEO TOKYOの立ち上げメンバーで、昨年、カルチャーデザインファームを掲げるKESIKIを立ち上げた。本連載では、多種多様な広義のデザイナーをゲストに迎え、「デザインの本質」を探る。

第一回のゲストは、プロダクトデザイナー深澤直人。家電・インテリアブランド±0(プラスマイナスゼロ)のデザインや無印良品のデザインアドバイザリーボードとして活躍する、日本のプロダクトデザイナーの代名詞的な存在だ。

独立前はIDEO SAN FRANCISCOの前身ID Twoで勤務。その後、日本支社長を勤めた深澤は、同じくプロダクトデザイナーというバックグランドをもつ石川にとっては大先輩でもある。

深澤が大切にしているのは「自然」「感じる」「日常」といったキーワード。プロダクトには、これらを体現したような心地よい間や距離感が底通し、世界的に評価されている。今年7月には、根底に流れる思想をまとめた『ふつう』(D&DEPARTMENT)を出版した。

世の中の常識や価値観が大きく変容し、これまでの「普通」が常識ではなくなった現状をどう捉えているのか。時代の節目における思考のヒントを探る。


「ふつう」の輪郭をあぶり出す


石川:コロナ禍でこれまで普通だったことが通用しなくなって久しいですが、そもそも深澤さんにとって「ふつう」ってどんなことなんでしょう。

深澤:僕がよく言っているのは「刺身の厚さはみんな知っている」ということ。刺身が美味しく感じられる厚さって、魚ごとに答えがあって、1ミリ分厚くても、薄くても美味しくない。

そして分厚すぎる刺身は自然と最後までお皿に残るんですよ。なぜか。それはみんな感覚的に美味しい厚さを知っていて、無意識のうちに選んでいるからです。

家具でも、食べ物でも、話し方でも、物事にはすべてそういうちょうどいいバランスがあって、誰もが自然にそれを感じ取っています。

石川:なるほど。物事が心地よく感じられるための条件は、実はみんな感覚的に知っている、と。

深澤:僕の考える「ふつう」というのは、みんなが暗黙に共有している感覚の「輪郭線」みたいなものです。少し物足りなくてたまに冒険してみるけれども、結局心地がよくて戻ってきたくなるような場所とか物ってあるでしょう。そういう物事のことです。

写真=小田駿一 構成=水口万里、若尾真実

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