この“楽観主義ルール”は、頭のいい人間は懐疑的になりがちで、提案されたアイデアを早計に論破してしまう傾向にあると考えた同社のパートナーたちが、そうした事態を阻止するために作り出した。これが、新型コロナウイルスのパンデミックによって絶望感が広がるなかで大きな意味を持ちつつある。
「我々は、投資先の企業に対して、勇気ある行動を取るよう促すことが義務だと考えています」
ベイリー・ギフォードの主要な運用戦略で共同運用マネジャーを務めるジェームズ・アンダーソン(60)は言う。アンダーソンは、112年の歴史を誇るこの投資会社で37年のキャリアを持つベテランだ。同社は現在、ポートフォリオ企業に書簡を送り、CEOに解雇やコスト削減を未然に防ぐよう促している。さらに、投資先企業が成長計画を維持できるよう、新たな資本も提供している。
これは、リスクに満ちた事業環境で大手資産運用会社が取るものとしては、珍しいスタンスだ。しかし、運用額2450億ドル(約26兆円)のベイリー・ギフォードは、もとより資金運用会社の中では異質の存在なのだ。
同社は、従来の企業価値の指標である1株当たり利益(EPS)や株価収益率(PER)にはほとんど注意を払わず、代わりに3つの要素を徹底して重視している。それは「企業の成長性」「競争優位性」そして「持続性」だ。価値志向の投資家であれば目を回しそうな銘柄に顧客の資金を留めておくこともいとわない。
いくつか例を挙げよう。いまや誰もが利用しているビデオチャット企業「ズーム」のPERは400倍。Eコマースの新興企業「ショッピファイ」のPERは50倍だ。また、オンライン家具販売の「ウェイフェア」は、2019年に前年の2倍となる10億ドルの損失を計上した。しかし、こういった銘柄こそが、そして14ある投資信託がそれぞれに抱える30〜50銘柄の多くが、まさに今回の危機で加速するトレンドの恩恵を受けている。
人気の“コロナ銘柄”を一つでも挙げれば、ベイリー・ギフォードがウイルスの感染拡大以前にそれらを発掘し、巨大な保有ポジションを築いていたことがわかるはずだ。同社は長きにわたり、「アリババ」や「アマゾン」「テンセント」「マイクロソフト」「ネットフリックス」で数十億ドル規模のポジションを維持してきた。
より最近の購入銘柄には、ズームをはじめ、新型コロナウイルスのワクチン開発で有望な「モデルナ」、デジタル医療の「テラドック」、オンラインでの教科書レンタル・販売の「チェッグ」などがある。