私たちの工場は『平和を叶える島』
ソーダストリーム本社があるイスラエルを取り巻く社会情勢は穏やかではない。8月には、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交の正常化で合意した。一方、パレスチナ自治政府は合意に反発している。パレスチナとイスラエルが長年抱える問題は、解決の糸口が見えないままだ。
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ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区側から見た、イスラエルが建設した分離壁(2019年12月撮影)
ユダヤ人とアラブ人が共に働く環境を実現させてきたソーダストリームも、過去にはユダヤ人入植地(*1)に主力工場を構えていることなどを理由に国際的な不買運動に直面した(現在はイスラエル南部に工場を移転済み)。それでも「戦争より炭酸水を作ろう」を合言葉に、ユダヤ人とパレスチナ人が手を携えてきた。
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ソーダストリームの工場で同僚として働く、パレスチナ人のタハ(右)とイスラエル人のシャハー(左)
現在開発中の呼吸器は、最終承認が下りればイスラエルの自社工場で量産に踏み切る予定だという。
「私たちはもちろん、親会社(ペプシコ)も、この新商品を驚きをもって受け止めている。世界中の必要な場所に供給したい」。
そう話すカッツ氏に尋ねた。「その“世界”には、パレスチナ自治区も含まれるのか」。
少しの間があった後、「私はイスラエルを代表する者でも政治家でもない」と前置きした上でカッツ氏は話し始めた。
「私たちの工場は『平和を叶える島』だ。工場内にはユダヤ人のためのシナゴーグがあり、その3メートル先にはイスラム教徒が祈る場所がある。全員がまるで1つの家族のような存在なんだ。私はソーダストリーマー(SodaStreamer =ソーダストリームの社員)として、呼吸器の最終認可が下りたときには地球上で必要とする人すべてに届けたいと思っている。もちろんだ。間違いない」(カッツ氏)
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アラブ系遊牧民ベドウィンのフルド(左)。ソーダストリームの主力工場で働く人の数は約2100人。うち約500人がベドウィンだという
新型コロナは国境や人種や宗教の“壁”を軽々と越え、世界中の人に感染症対策という共通の課題を与えた。「誰ひとり取り残さない」対策が求められるなか、「平和を叶える島」から生まれた呼吸器も、様々な壁や政治的な対立を越えることができるだろうか。
臨床試験の結果を見守りつつ、その先にある未来にも目を向けていきたい。
*1. 1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領した、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区などに建設したユダヤ人居住区のこと。国連は、ユダヤ人入植地は国際法違反であるとの見解を示している。
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