ビジネス

2020.08.31 12:00

現代アートに触れて「資本主義だけじゃない」世界を知る

2019年にロンドンのテート・モダンで開催された「Olafur Eliasson: In Real Life」(Getty Images)


その結果、僕も家で過ごす時間が増えました。その変化との因果関係は自分でもわからないのですが、最近人生で初めて「ペインティング(油彩)」を購入しました。展覧会を見るだけでも一定の満足度は得られているのですが、本当に好きなものは自分のそばに置いておきたいという思いが前よりも強くなったのかもしれません。
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ペインティングって、重いんですよ。アーティストの心と体の一部をいただく感覚というか、アーティストが乗り移ったような作品との精神的なコミュニケーションが常に発生し得るので、向き合うのにエネルギーがいるんです。本当に好きと思えないと、なかなか買いにくい。

生活の変化や、心から気に入った作家の作品に出会えたことなど、いろんなタイミングが重なっての購入でしたが、プライベートの空間に自分とシンクロニシティを感じるアートがあるというのはやはり心が休まる感覚があります。


今回購入した川内理香子さんのペインティング『KIND ANGER EASY TO BE HURT』

──山本さんにとって、現代アートはどんな役割を担っていますか。何を求めて向き合い続けているのでしょう?
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僕はスタートアップの経営者で、ビジネスにおいては資本主義のルールで戦いをし続けています。でも世界全体からみたら資本主義なんてちっぽけなもので、「せいぜい野球ぐらい」と思っていたりもします。野球をするうえではもちろんそのルールが大事ですが、人生のルールと野球のルールは全然違う。人生はスリーアウト9回で終わったりしないですよね。

豊かに生きていくには、「世界はどう構築されているのか」とか「人間はどういうものなのか」とか、もっとプリミティブなことを知り続ける必要がある。そうでないと、世界の見方が狭くなります。一昔前は資本主義のルールをマスターすればビジネスの成功確率を高められたかもしれませんが、物事の判断軸が長期目線かつエシカルに変化していっている今日、最適な判断を最速かつ連続的に積み上げていくにも、既存のルールに加えて、もっと大きな原理を深く学ぶことが重要だと考えています。

そのうえで僕が現代アートに求めるものは、アーティストが世界をどう見ているのかという視点。個人的には、それをできるだけ理解しようとするプロセスに99%ぐらいの価値があります。このプロセスは、作品を保有しなくても体験できるんですよね。

“アーティスト”と呼ばれる人々には特異な視点を持っている人が多く、その人たちのプレゼンテーションに触れ、自分では想像もつかない世の中の見方を連続的にインプットすることで、自分の定規の目盛りが細かくなっていく。ビジネスの判断の軸にもなる「解像度の高い自分なりの尺度」と「適切な覚悟を決められる勇気」を持てるようになります。


2020年7月、アーツ前橋で開催された企画展 廣瀬智央 「地球はレモンのように青い」にて(写真=山本憲資)

一方、現代アートを通して「いまの世界」を知ることと同じぐらい、「普遍的なもの」にも強く惹かれます。僕はクラシック音楽が好きなのですが、世界有数の指揮者や演奏者が数百年前に作られた作品に人生を捧げる様を見ていると、変わらず価値があるものとはなんなのかというのが少しずつ見えてくる気がします。

変わりゆく今と、変わらない価値。その両方に触れると、この世界のプリンシパルを学んでいけるのかなと。そういうインプットに満たされている状態でこそ、仕事で気持ちよく全力を出し切ることができます。
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編集=鈴木奈央

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