ファンにはよく知られていない大リーガーの間だけで通じる、どこにも書いていないルール(unwritten rules)を破ったからだ。
この暗黙のルール、つまり不文律は、長いこと大リーグに存在しているが、成文化はされていない。そのため、解釈は時代や世代や状況によって変化し、それをめぐってチームどうしで乱闘騒ぎに発展することもある。
しかし、どんなことがあっても、味方は味方、敵は敵。相手チームのクリス・ウッドウォード監督は当然この不文律を破ったことを非難し、マナーが悪いという主旨のことを言ったが、それは敵なので理解できる。
しかし、味方であるはずの自分のチームの監督から批判されるなどということは、かつてなかった。自軍の監督が、部下をかばうことなく、マイクの前で部下を批判するとは何事かとファンは怒っている。さらには、そもそも不文律そのものの存在がスポーツマンシップに反するのではないか、ファン不在だし、そんなアンフェアで古典のようなルールを、メジャー2年目の21歳の選手に対して徹底させるほうが理不尽だと、ファンの猛烈な反発を呼ぶにいたっている。
ファンを白けさせる不文律
ことの経緯はこうだ。21歳の若き天才、サンディエゴ・パドレスの有望スラッガーであるフェルナンド・タティス・ジュニアは、8月17日のテキサス・レンジャーズとの試合で満塁ホームランを打った。
ところが、このホームランは、8回の表、すでにパドレスがレンジャーズに対して10対3と7点もリードしていたときで、かつスリーボール・ノーストライクからの4球目を打ったものだった。
大リーガーの間では、3点以上のリードで7回を超えた打席では、スリーボール・ノーストライクからの4球目は見逃がさなければならないという不文律があるらしい。これに抵触したわけだ。