満塁ホームランを打ったのに謝罪。ファンを白けさせた大リーグの不文律

フェルナンド・タティス・ジュニア選手(Rob Tringali / 特派員 /Getty Images)


インターネットで大リーガーの不文律を検索すると確かにたくさん出てくる。ところがいくつものそれを比較してみると、それぞれが少しずつ違っていたり、解釈が微妙に変わっていたりするのがわかる。

例えばウィキペディアを見ると、スリーボール・ノーストライクでは、それが何回の攻撃であっても、あるいは何点差であっても、自チームが勝っているときには4球目は見逃さなければならないというシンプルな内容であり、先程の解釈とは違う。

しかも、アメリカのスポーツ専門チャンネルESPNによれば、2019年にスリーボール・ノーストライクから打撃に出た場面は11.1%もあったという。これは10年前と比べると倍の数字になっており、この不文律が時間とともに変化してきているのがよくわかる。40歳の選手と20歳の選手では記憶しているルールが違っても当然なのかもしれない。

その他にもこの不文律には、大差で勝っている時に盗塁をしてはいけないとか、ピッチャーが2本連続でホームランを打たれた後の初球は見逃なければいけないとか、デッドボールを受けた箇所をこする動作を見せてはいけない(「へっちゃらさ!」と舐めた動作と受け取られる)とか、さまざまなものが見られる。

しかし、ジンクス(自チームの投手がノーヒットノーランを進行中には、そのことを口にのぼらせてはいけないなど)であったり、相手チームに対する敬意を示すマナーであったりしたものが、不文律とごちゃごちゃになって混在し、さまざまな解釈で運用されているのが現状のようだ。実際今回も、このホームランのすぐ後に、投手はわざと打者の背中を通り抜ける暴投をし、険悪な雰囲気になった。

野球ファンはおおむねタティス・ジュニア擁護に回っていて、監督批判が目立つ。なかでもユニークだったのは、シンシナティ・レッズのトレバー・バウアー投手が自身のツイッターで、「どんな状況でもスイングし続けてくれ」とこの不文律への抗議とタティス・ジュニアへの励ましととれる投稿をしていた。そして、バウワー投手は、「そして、君は二度と謝ってはいけない」とも締めくくっている。

大リーグは、コロナ禍で、労使利害対立をやっとまとめてシーズンをスタートさせたところだ。これ以上ファンをがっかりさせないためにも、野球を純粋なスポーツに戻し、初めて相手球場で満塁ホームランを打った大リーグ2年目の若い有望選手のせっかくの思い出を台無しにするような悪習からは離脱すべきだ。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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