満塁ホームランを打ったのに謝罪。ファンを白けさせた大リーグの不文律

フェルナンド・タティス・ジュニア選手(Rob Tringali / 特派員 /Getty Images)


タティス・ジュニアは、満塁ホームランを打って大喜びでチームのベンチに戻ってくるが、ジェイス・ティングラー監督は険しい表情で黙ったままだ(タティス・ジュニアがサインを無視したという日本の報道もあるが、それについては後述)。タティス・ジュニアは明らかに納得がいかない。

試合後、タティス・ジュニアは、記者団に対して自分が不文律のことをよく理解してなかったとして、正式に相手チームに謝罪をした。

しかし満塁ホームランを打った選手が相手チームに謝罪をするという異例の事態は、いかにもファン不在の閉じた世界の暗いしきたりであるとファンを白けさせ、この謝罪行為にファンが怒りをあらわにしている。

タティス・ジュニアは、この不文律のことを全く知らなかったわけではなく、見逃さなければいけないとされていたのが「何点差の場合」なのか、「何回以降」なのかがわからず混乱していたと話している。

そもそもこんな複雑な不文律が、なぜ明文化されずに30球団で共有されているのか。不思議であると同時に、このようなものが一球入魂で勝負している現場の選手に、パーフェクトに記憶されているとも思えない。

パドレスのティングラー監督は、選手時代には大リーガーとして球場の土を踏んでもいないし、大リーグでの監督経験も今年が初めて。しかも、長年相手チームのレンジャーズで、フィールドコーディネーターやフロントオフィスやアシスタントマネージャー、傘下のマイナーリーグの監督などをしていたことから、わざわざ記者会見で自分の部下を批判したのは、自分の本来の仕事以上に古巣の仲間のことを慮ったからではなかったのかと、ティングラー監督に対する非難は後を絶たない。

また、タティス・ジュニアがサインを無視したと日本の一部の報道は書いているようだが、動画を繰り返し見れば、タティス・ジュニアが三塁コーチャー(監督からのサインを伝授する)を見ていなかったことがわかる。決して無視ではない。サインの見落としが妥当な解釈だろう。このサインの見落としは現場ではよくあることで、自分の監督に公的に非難され、謝罪をするようなことではない。

さらに、相手チームのクリス・ウッドウォード監督は、ロサンゼルス・ドジャースでのコーチ時代に7対1で圧勝しているなかに迎えた7回の攻撃で、マニー・マッチャドがスリーボール・ノーストライクからホームランを打ったとき、三塁コーチャーとしてマッチャドと堂々とハイタッチを交わしている。

立場が変われば、野党から与党へ鞍替えする代議士のように、まったく反対のことを言うのは野球ファンには想定済みだが、それにしても、自分の監督に非難されることは空前絶後であり、解せない。
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文=長野慶太

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