#供述弱者を知る


「本人も周りも気づいていない、となると、人間関係が悪化しやすい。上司や同僚は不誠実だと誤解しがちになる。実際はそうではない。注意されても直らないのは、意識が上の空になってしまうだけで、本人としては仕事を精一杯やっているつもり。でも、そこが理解されない。そうなると、職場の人間関係がおかしくなってしまう。背景に障害が絡んでいることはままあるのに、気づきや知識がないと、人格攻撃に向かってしまう。医療の現場でも起こり得る。このケースはおそらく、そうだろう」

西山さんは両親への手紙に「辛かった。イジメられて……」とつづっていた。

病院のベッドシーツの交換や清掃、配膳、患者のおむつ交換の補助などを行う看護助手の仕事。一生懸命やっているつもりなのに、不器用であるがゆえにお茶を上手に注げなかったり、不注意であるがゆえに、お茶をこぼしたことに気づかなかったり、意識が上の空になって上司の話が右から左になったりした結果、誤解されやすかったとすると、上司の看護師との間になぜそこまで深い〝溝〟ができたのかが、見えてくる気がした。


西山さんはお茶をこぼすなどちょっとしたミスを連発し、上司に叱られて職場にいづらくなっていた(Shutterstock)

傷を癒した? 滋賀県警の「A刑事」がしたこと


患者が死亡した後も、西山さんと上司との関係は改善しなかった。数カ月後、西山さんは事件のあった病院を辞めて、別の病院に職場を変えた。しかし、心に深い傷は残った。その傷を癒やしたのが、滋賀県警捜査1課が送り込んだ、当時30歳すぎのA刑事だった。

「あなたはむしろかしこい子だ、普通と同じでかわった子ではない」。その言葉が西山さんを癒やし、そして舞い上がらせた。人生で初めて頼りになる味方を得た思いになり、心を寄せた。

呼ばれてもいないのに何度も捜査本部にA刑事を訪ね「調子にのってぺらぺらと言わないでいいこと、たとえば、病院に対することを言ったりした」(獄中手記)という。

A刑事に病院での不満をぶちまけた結果、どうなったか。逮捕後、犯行動機を探しあぐねていた警察に、彼女がこぼした愚痴や不満は、おあつらえ向きの動機に仕立てられていった。

起訴状にはこう書いてある。

「看護師らの自己(=西山さん)に対する処遇等に憤まんを募らせていたところ、そのうっ積した気持ちを晴らすため同病院の入院患者を殺害しようと企て(中略)殺害したものである」

警察と検察の作り話を1審の裁判官は「犯行の動機は、看護師らからたびたび勤務態度を叱責され、孤立感を深めるとともに、看護助手が不当に冷遇されているなどと不満を募らせ、その不満の気持ちを晴らそうなどと考えたというのであるが(中略)このような殺人の動機は、短絡的なものではあるが、決して了解できないものではない」と安易に認めてしまった。

孤立感を深め、不満を募らせたのは事実だが、それを「犯行動機」と結び付けたのは、警察の作り話に他ならない。

文=秦融

この著者の記事一覧へ

PICK UP

あなたにおすすめ