アメリカのマスク着用率と支持政党の奇妙な相関関係


私が暮らしているニューヨークでは、3月初めには、街では誰もマスクを着用していなかったが、3月末までには、マスク着用率は9割近くになり、さらに4月15日にはアンドリュー・クオモ州知事が、外出時には常時マスク、スカーフなど鼻口を覆うものを着用すべしという行政命令を発出。これまでマスクをする習慣のないアメリカでは画期的な方針転換といえる。ニューヨーク市では、外出時のマスク着用と、人と人との距離を取る(Social distancing)ことが、守られている。

6月に入って、ニューヨークでは顕著に新規感染者、新規死亡者の数が減少してきた。経済活動再開も視野に入ってきたが、クオモ知事(民主党)は警戒を緩めずにマスクとSocial distancingの徹底を訴え続けている。

一方、ドナルド・トランプ大統領(共和党)は、自分自身マスクを着用することなく、マスク着用の重要性を訴えることもしていない。トランプ大統領の支持者集会では、マスク着用率は低い。

一般的に、民主党知事のいる州では、マスク着用が命令されて、経済活動再開も段階的に慎重に行われていて、感染者数を減らし続けているのに対して、フロリダ、テキサスなど共和党知事の州では、マスク着用を命令することは市民の自由を奪うものとする考え方をする人も多く、マスクの着用率は低い。

いまや、民主党の地盤の州では、マスク推奨で新規感染率は低下を続け、共和党(とくにトランプ支持)の州では、マスクを着用せず、感染拡大が続いている、という奇妙な相関関係が生まれている。

マスク着用は科学的に証明するもののはずだが、いまのアメリカでは、政治に翻弄されている。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学特別教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002~14年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。

文=伊藤隆敏

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