──稲本さんの人生にとって「海」がある生活が重要だと気付いたきっかけはあったのでしょうか?
僕は、サーフィンやトライアスロンが趣味だったので、昔からいつもこの趣味を楽しめる場所に住みたいと思っていたんです。その点ハワイは理想的な場所でした。とにかく、雄大な海が目前に広がる風景はとても刺激的だし、マインドセットにポジティブに影響する。その刺激から仕事に対するクリエイティビティもふんだんに生まれて来るんです。
実はハワイにも四季があるんです。その季節の移り変わりに沿って、サンセットの位置が変わる。自然のサイクルに合わせて生活していると、五感に響く新しい感性が冴えて来るんです。そこがハワイの魅力ですし、僕が海に魅せられる原点だと思っています。
都会に住んでいると、アウトプットだけでインプットが少ない。ただ、海が身近にある生活をしていると、雨の日は雨の日なりのインスピレーション、晴れた日は晴れた日なりのインスピレーションが自然に湧いてくるし、リラックスした時間と空間を楽しむことができ、それらがクリエイティブにつながる大いなる自然のインプットになるんです。
Photo by Akira Kumagai
──インスピレーションはどんなときに湧き上がってくるのでしょうか?
自然はコントロールできないから、全ては偶然との出会いだと思うんですよね。たとえば、湘南を原付バイクで走っていると、海の色、海の風、学校帰りの学生など、その時、偶然に目に映るさまざまな光景から、色とりどりのインスピレーションが生れて来ます。でも、それには、そうした何でもない普段の風景から、何かを感じ取る「アンテナ」を張ることが必要だと思いますし、自然はそのアンテナを自由に操作させてくれるような気がするんですよね。
──経営者の方に趣味にされている方も少なくありませんが、稲本さんにとってトライアスロンの魅力は?
始めてから15年経ちますが、トライアスロンは「他者ではなく、己に勝つ」という孤独なスポーツだと思うんです。経営にはゴールがないけれど、トライアスロンという競技を借りてゴールを持つと、自分の人生をリセットするという「疑似体験」を味わうことができる。要するに、トライアスロンというスポーツを通して、「ゴールしたんだ」という達成感を疑似体験できるのが経営者にとっての魅力なのかもしれません。
──トライアスロンは肉体的にも厳しいスポーツだと思いますが、つらい時には何を考えているのでしょうか?
ロングレースは思考の連続で、ちょっと退屈に感じる側面もあるけれど、身体を動かしながら色々と回想し、心身共に自分を解放していくと、突然ブレークスルーというか、覚醒が起きたりする瞬間があるんです。
それにトライアスロンはもともと個人的な団体競技という点で仕事に近い面がある。だから、そのトレーニングの過程は、事業をつくるときと同じだと思っています。苦行を重ねたからこそ発揮できる底力。そういう点でも、仕事の基本に通じるものがあるのではないかと思うんです。