経済・社会

2020.08.31 14:30

EU全農地の25%をオーガニック化へ 「農家の支援」がカギを握る


農場から食卓へ戦略(F2F)の課題


オーガニックセクターの大勝利と言われるF2Fにも課題はある。ひとつは、「域外の安価な輸入食品などに対してEU農家が競争力を失いかねない」ことだ。「欧州委員会は、サステナブルな食に重きを置いた二国間協定を結ぶと述べていますが、それだけでは対応策として十分とは言い切れません。このシステムを実現するのに要となるプレイヤーは生産者です。農家に義務や負担を課すだけではなく、どれだけ支援できるかが鍵になります」とシュミット氏は語る。

課題はもう一つある。F2Fの項目に「革新的な新技術(New Innovative techniques)」と呼ばれる新しい品種改良技術の促進が掲げられている。イノベーションという名の下に、遺伝子組換え技術が使用されてしまう可能性があるというのだ。

フィンランドの有機農家を代表するレンネリ氏はこれに対して、「オーガニックセクターでは、最先端のイノベーションが品種改良に関する課題を解決するとは思っていません」と強く語った。

オーガニックは「持続可能」の中心ツール


現代社会は食と農のあり方に多大な影響を受けている。生物多様性喪失の約60%は近代農業に起因しており、限りある資源であり飲み水でもある淡水の約70%は農業セクターで消費されている。食料生産や消費を通じて排出される温室効果ガスは、全排出量の約30%にもなると言われている。

皮肉にも、地球温暖化による自然災害で真っ先に被害を被るのは食と農の世界だ。EUは、この悪循環を断ち切るために、逆転の発想でF2Fを打ち出した。同戦略では、環境問題や社会課題の元凶だった食と農のシステムを「解決策」として活用する。その中心にすえられたのがオーガニックだ。

今期、欧州委員会委員長を務めるウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は、「2050年までにEUを初の気候中立大陸にする」という政策公約を掲げ、2019年11月にEU史上初の女性委員長となった経緯がある。現欧州委員会の元、EUは気候環境を筆頭にオーガニック分野においても強大なリーダーシップを発揮する大陸になっていくだろう。

取材協力:Silvia Schmidt(IFOAM Organics Europe), Almantas Liorentas(Lithuanian Association of Organic Farms “LEUA”), Susann Rännäri(Finish Organic Farmers Association “Luomuliitto”)

連載:社会課題を解決するオーガニックの秘密
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文=レムケなつこ

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