砂の塊の中にどんなふうに『像が入っているか』
「最初から『図面なしでぶっつけ本番』だったわけではなく、やっていくうちにアドリブになっていった、むしろならざるをえなかったという感じですね」
制作経験を積むにつれ、重機によって積まれた巨大な砂山の中にどうやって形を組み込んでいくかが、「頭の中に」3Dの設計図として用意されるようになったという。完成予想図が「脳裏には」あるから、制作プロセスでより臨機応変が効くようになったのだ。
「砂像を始めて来年で25年になりますが、ようやく、砂の塊の中にどういう風に『像が入っているか』がわかるようになってきました」
つくりながらも「見る視点」を常に持ち続けるべく、砂山、すなわち作品への上り下りはかなり頻繁に行うという。
「上でちょっと彫って、下に降りてお客さんが見る位置に立って形をチェックして、おかしいと思ったところをまた登って彫る。一日中登り降りしていますね」
木枠は階段上に積まれているので、その枠自体が足場になる。だから、木枠は全部一気にとってしまうのではなく、上の段の形ができたら次の段の枠を外して、という具合に徐々に下に降りていく。だから像は、だいたいが上から下へ広がる形になっていく。
『ポセイドン』台湾 福隆 「福隆國際沙雕藝術季2019」2019年3月 3m(W)×3m(D)×3m(H)
表面に厚く「噴霧」するもの
完成して展示しても、通常2~3日から1週間で壊してしまうため、いわば花火や満開の桜のような「儚い」イメージもある砂像アート。しかし、たとえば千葉の館山では常設展示、一つの砂像で実に1年間、展示しているという。
「館山では、ある砂像を1年間展示したら壊して、また違うテーマでつくって、同じ砂でつくり直し、また1年展示します。表面は定着剤がついているので取り除くのですが、中の砂はまた再利用します」
当然、作品の強度を担保する必要があるため、彫った箇所から表面に定着剤を噴霧し、表面を固めていく。道路工事などで使う、砂埃が舞うのを抑えるための「飛び砂防止剤」を利用するのだ。
環境に影響のあるものを含まない、安全基準をクリアした定着剤を、1回や2回ではなく、乾いたら同じ箇所に再噴霧し、乾いたらまた噴いてを繰り返して重ねていく。最終的に5ミリくらいの厚さになるから、そうなれば相当な大雨でも1、2カ月は持ちこたえるという。
「3日間雨」なら、制作日数は3日減る
臨機応変を強いられるアクシデントは、砂の山が崩れること以外にはやはり「天候」だ。屋外での制作ならではの運命といっていい。
「たとえばイベント主催者からもらっている制作期間が10日間だとして、3日間雨が降ったら、残り7日間で制作しなければなりません。それは、当初考えていたデザインを『7日間仕様』に変更すること、要するに7日間で仕上げることができる簡単なデザインのものに改変することを意味します。あくまでも妥協でなく変更ですが、そこもやっぱり、即興(アドリブ)になってきます」
『天女と鯉』「H×imagine 東松島サンドアートプロジェクト2019」宮城県東松山市 KIBOTCHA 2019年9月 6m(w)×3.3m(d)×3.6m(h)