若き起業家の間ではこうした「祭り」への参加を毎年恒例にしている人も多いという。カリフォルニアで毎年開催される巨大フェス「バーニングマン」は、最近イノベーターやリーダーたちが多く参加することで話題だが、実は日本にもそういう祭りがあるのをご存知だろうか。それが、毎年徳島で行われている「阿波踊り」だ。
彼らはなぜ「祭り」を求めるのか。祭りや踊りの持つ役割とはどんなものなのか。
日本で唯一のプロの阿波踊りエンターテインメント集団「寶船(たからぶね)」を率いて世界各国でパフォーマンスをしてきたリーダーの米澤渉さんに聞いた。
熱狂で理性をぶっ飛ばす
──多くの若い起業家や経営者が、毎年徳島で行われる阿波踊りに参加していると聞きました。阿波踊りのどのような部分が彼らを惹きつけるのでしょうか?
阿波踊りには、踊り手や鳴り物のメンバーからなる「連(れん)」と呼ばれるグループがいくつもあるのですが、毎年徳島の阿波踊りに参加している中に、起業家や経営者、アーティストの方々が多く集まる連があります。そこには誰もが知るような著名な方々も参加されていて、今年はお祭りそのものが中止になってしまいましたが、私たちも毎年徳島で一緒に踊っていました。
みなさんお祭りでは、本当にただただ夜通し汗だくになりながら踊りまくって、酔っ払って、笑いあって、側から見るとカオスでぐちゃぐちゃになっているんですが(笑)、私はそれこそが「祭りの本質」なんじゃないかなと思います。
この連に参加されていたある起業家の方が言っていたのですが、彼らはお金を出してでもこうした「非日常の人間的な官能」を感じられる体験をいつも探し求めているのだと。つまり、「熱狂で理性をぶっ飛ばせる方法」を探しているというんです。
人によっては、その方法がサウナだったり、アウトドアだったり、筋トレだったり、美食だったりとさまざまだけれど、その1つに実は踊りがある。「動くマインドフルネス」というか、理屈じゃなくて五感を使って頭を空っぽにする時間を求めているのだと、私も一緒に踊ったり話を聞いていたりしていてすごく感じますね。
──普通のダンスではなくて、彼らが「阿波踊り」を求める理由って何なのでしょうか?
阿波踊りの精神は、「踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃ損々」。「踊る人も見ている人も、どうせ阿呆なのだから踊らないと損だぜ」という意味で、そもそも無礼講であることが条件のストリート発のお祭りです。
ストリートでパフォーマンスをする寶船。最後は観客も入り乱れて踊り出す(2018年)
踊り方も「なんば」といって、右手と右足、左手と左足を一緒に出す、という基本形はありますが、ほとんど自由です。好きに踊ればいい。
例えば、他のダンスだと、ルールや振り付けがあったり、上手い下手や技術の優劣を他人から評価されてしまうことが多いですよね。それだと、日常生活や仕事の場合と変わらなくないですか? あいつより自分が上だとか下だとか、あの人は何年先輩だとか、そういう思考になってしまうでしょう。