動くマインドフルネス? 若き起業家たちはなぜ「阿波踊り」に熱狂するのか

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また、ただ音楽を爆音で楽しみたいならいわゆるクラブに行ってみるのもいいですが、これも最終形態は「カッコいい」とか「イケてる」みたいなところを目指しがちです。一部の特別な人だけのカルチャーというイメージもありますよね。

でも阿波踊りは、そもそも上手さやカッコよさを競うものではないんです。踊り方だって格好だって、決してスタイリッシュなものじゃないのは見れば一目瞭然ですよね(笑)。

無礼講でフラットに「みんな踊る阿呆になれ」。爆音の太鼓の響きやうねるリズム、祭りが生み出す独特の熱狂に身を任せて、人前でどれだけ心を裸にして、ダメになった自分をさらけ出せるか、恥をかけるか。それが阿波踊りの一番の肝なんです。

カッコつけることを「休む」、小利口でいることを「休む」、五感を開放して理性的でいることを「休む」──。はじめての人は見物しているだけだっていい。熱狂の渦の中にいたら自然とどうでも良くなって、体が動き出すはずですから。


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「阿呆」が世の中を変えていく


──自分をさらけ出して「阿呆」になっていい場所って、そういえば普段の生活ではほとんどないかもしれないですね。

現実の世界では、「どれだけ失敗しないでいられるか」が大事だから、真逆ですよね。失敗のリスクを避けて、なるべく恥をかかないようにっていう態度がしみついちゃってる。

でも、そういう世界にずっといると、どうしても怖がりになってしまうんじゃないかと思うんです。勇気を出して新しい何かをしてみようという時に、つい失敗のリスクを考えてブレーキをかけて諦めてしまうというマインドになりがちですよね。

そう考えると、阿波踊りって、お祭りの独特な熱狂に助けられて、どんどん恥をかいて、自分で勝手に設定していた「心のたが」を外せるようになる擬似体験の場なのかもしれない。

だからこそ、損得勘定ではない仲間意識が生まれたり、さらけ出しあう共通体験を重ねる事で信頼できるようになったりするんでしょう。

恥をかいてリミットをぶっ壊す体験をして、ある意味「阿呆になることに麻痺」していった人たちが、自分の人生でも周りの目を気にせず、どんどん挑戦できるようになる。阿波踊りに熱狂する起業家やイノベーターの人たちって、そうやって次々と新しいアイデアを形にしているんだと思います。

あのスティーブ・ジョブズも、「ハングリーであれ。愚か者であれ(Stay Hungry. Stay Foolish.)」と言っていますし、吉田松陰も「諸君、狂いたまえ」と、当時の常識に囚われない生き方をしたと言われています。

いつの時代も世の中を変えるのは、「阿呆」であり、「愚か者」であり、「変人」なのかもしれませんね。

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寶船は海外でも活躍している。NYのタイムズスクエアにて。中央が米澤さん

米澤渉(よねざわ・わたる)◎プロの阿波踊りパフォーマー。1985年生まれ、東京都出身。徳島出身の父を持ち、4歳より阿波踊りを始める。2012年寶船の運営として一般社団法人アプチーズ・エンタープライズの起業に携わり、プロデューサー兼プロメンバー『BONVO』のリーダーを務める。これまでに世界20カ国61都市に活動を展開し、国内外のイベントなどで活躍する。

構成=松崎美和子

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